ピュアオーディオとワイヤレス

今の私のシステムのようにコンピュータ内のミュージックファイルを無線でアンプに送りスピーカを鳴らす方式は,実はそれほどユニークなものではない.たくきよしみつ著「大人のための新オーディオ鑑賞術」(講談社ブルーバックス,2009年)ではその方式を推奨している.ただしこの書が出版されたころはすぐれたディジタルアンプがなかったため,AirMac Express か REX Link2 を使い,そのアナログ出力をアンプに入力する方式を述べている.私もAirMac Express で試したことがあるが,いかんせん,DV-50による再生にかなうものではなかった.

ファイルオーディオのメリットを最大限生かすためには,
  1. 正しい非圧縮データを記憶し,読み出すこと
  2. パルスタイミングを精密に調歩してDACに入力すること
  3. すぐれたDAC,つまり電圧のパルス列波形を音圧波形に変換する機構を持つこと.
  4. すぐれたアナログ増幅,つまり電圧ー電力変換機構を持つこと
  5. すぐれたスピーカ,つまり電力−空気圧変換機構を持つこと
が基本となる.1と2をつなげるところを無線にするのが無線方式だが,ケーブルを張る煩わしさを避けるためというのではなく,ケーブルを用いることによって生じる信号劣化を排除するためである.光ケーブルを使えば光電変換が問題となり,アナログまたはディジタルケーブルを使用するとそれと電源ケーブルやスピーカケーブルとの電磁場的相互作用が問題となる.あまり声だかには言われていないが,特に磁場結合の影響は相当あるのではないだろうか.以前,磁力で浮かす構造のラックを使ったことがあったが,機器内の回路に影響しているようで,使用をやめた.現在使っている人はほとんどいないのではないだろうか.

無線も当然他の干渉を受け,自身の信号は汚される.しかし,電源やスピーカケーブル,それにアンプやスピーカなど他の機器に与える影響は磁場ほどはないはずだ.自身の信号の損傷は,信号がディジタルならばそれを受ける側で修復することが出来る.修復できないほどひどい場合は音切れやさらにはプログラムダウンにつながる.それを覚悟の上でのディジタル無線利用である.ディジタルテレビが,通常はアナログではとてもかなわない高精細な画面を送ってくるが.豪雨や落雷によって電波が乱されると,画面が破壊的に損傷されるのと同じである.

無線でせっかくアンプのそばまで情報を持ってきても,そこでDA変換し,その出力を有線でアンプに入力するのであれば,このようなディジタル無線のメリットはほとんど反古になってしまう.アンプ自体が無線を受信し,その情報をバッファにおいてタイミングを精密にそろえて自分の内部のDACにわたさなければならない.この一連の機能,つまり上記の2,3,4のステップを統合し,高度な水準で果たす機器はD-Premier Air 以外にあるのだろうか.

前掲書146ページに「音楽のデータ管理はデジタルで行い,再生は思いきり贅沢なアナログで楽しむ」とある.我が意を得たりと思わず膝をたたきたくなった一文である.著者はこの方針から上記の無線方式を引き出すのだが,しかし,残念ながら肝心なことが押さえられていない.量と時間についてきわめて精緻な左右のアラインメントを必要とするステレオでは,この違いは命取りとなり,ピュアオーディオの追求からははずれることになる.

実は昨日からD-Premier Airをもう一台,試聴のために借してもらっている.SDカードによるConfigにミスをして手こずったが,それを乗り越えてからずっとDual monoで聞き続けている.たしかにいわゆる「位相」(つまり左右音圧の差)がより精密になったが,その結果,部屋の吸音,反射により敏感になったようだ.乱反射要素として観葉植物を入れてみたが,とくに壺の強い反射のせいか,妙に賑やかで聞きづらい.また,PLEOの位置にもきわめて敏感に反応し音場が変わる.その調整に追われてDual mono の真価がまだ見いだせない.果たしてもう一台分の出費を覚悟するかどうか.私にとっては巨費だ.ここは思案のしどころか.

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