M1 MacBook Air上のRoonの音は、より鮮明にして豊潤

  我がシステム μJPS のMusic Playerとして使用してきたMacBook Proが4年を経過したため、そろそろ更新しようと考えていたところ、アップルからM1チップを使用する新機種が発売されるというアナウンスがあった。MacBook Air、MacBook Pro、そしてMac Miniの三機種である。以来、どれにしようか、あれこれ考えて楽しんだが、結局 Air にした。メモリとストレージは、使用してきたMacBook Pro 2016と同じ、16GBとSSD 2TBにする。ベンチマークテストによると約2倍の速さなのに、値段は Proの半分以下。未だにムーアの法則を満たしている?

 12月1日にアップルに注文し、届いたのが14日。Proから新Airへの引っ越しは、「移行アシスタント」を使用した。これまで何度もお世話になったソフトでよく出来ている、と感心していたが、今回は、アップルID入力を何度か要求され、面倒だった。そのうちの一つで、なぜかパスワードが入力出来ない状態になり、立ち往生しかかった。あれこれ試して結局分かったのは、文字入力が「U.S.」になっているのを、「U.S. internasional」にしないといけない、ということだった。その他、細かい障害を乗り越え、データ移送まで辿り着き、WiFi経由で10時間以上掛かった。1.5TBあるのだから、しょうがないか。

 翌日、早速テスト。OSはバージョンアップされたばかりのBig Sur 11.1。ブラウザの表示など、やはり早い。しかし、0.5秒が0.1秒になった、という感じ。それでも体感で、早い、と感じられる。

 問題はRoonだ。RoonのCore機能と音楽ライブラリ収納こそがこのパソコンの任務なのだから。CPUのアーキテクチャ(機械語のセット)がインテルからAMDのものに変わったのだ。既成のアプリがその上で動くとすれば、それこそ不思議なくらい。そこはアップルは考えていて、Rosetta 2なる翻訳ソフトが用意されている。Roonのサイトを見ると、問題なく動く、と言明されている。それでも半信半疑で、やってみないと分からない。こわごわとRoonを起動すると、あら不思議、Rosetta 2をインストールする必要があるがいいか、と聞かれ、OKとすると、ほんの一瞬を経て、Roonが動いた。先代のRosettaは逐次変換方式で失敗だったが、Rosetta 2は一括変換をするようだ(Wikipediaの「Rosetta」項を参照)。当たり前だが、逐次変換では実行時遅くなってしまい、CPUを高速にすることの意味がなくなる。これも事前に心配したことだが、この愚行はないようだ。

 次はDevialetアンプへのEhternet接続だ。もとのMacBook Proに接続していたLANケーブルを新MacBook Airに接続。しかし、「システム環境設定」→「ネットワーク」に「接続が表示されない。さては、M1の機械語の問題か、あるいはM1チップ自体にそのポートの処理がないのか。悪い方に考えが進み、途方に暮れかかる。このままアップルに返品しようか、応じてくれるはず、などと思案投げ首。そこは我慢で、何のことはない、再起動したところ、接続出来た。Devialetアンプに付けていたIPアドレスを手入力し、見事、RoonのRAATが機能し、スピーカ Sonus Faber Serafino から音が出た。やれやれ。

 さて、この音だが、苦労したせいか、なんとも素晴らしい。オーディオシステムの中で新しくした部分はパソコンだけ、つまり完全にディジタル処理だけで、アナログ的要素は何もないはず。それで音が変わるわけがないではないか。

 パソコンが使用する電源の高周波的ふらつきがアンプの電源に影響することが考えられる。実際、Roonのサイトでは、Control部ではあるが、パソコンでなくスマホかパッドを使うことを推奨している。なぜならスマホ、パッドはバッテリ駆動で、オーディオへの電磁的つながりがないから。私も以前からこのことは承知していて、実際、Roonを載せたノートパソコンの電源はRoon演奏時には切るようにしてきた。今回機種更新の準備思考段階で、あらためてパソコン電源のオンオフを繰り返し、聞き比べてみて、微妙とはいえ、確かに違うことを再確認した。電源駆動時には音が硬くささくれ立つのだ。オフ時(バッテリー駆動時)には、音は柔らかく、滑らかになる。今回、Mac Miniを選択せず、ノートパソコンにしたのはこの理由からである。

 パソコンの電源を繋げるプラグには以前から機械式タイマーを仕掛けている。オーディオを聞き始める午後にオフにし、夜が更ける時間にはオンにする。最近これをスマートプラグに変えた。IoT機器の一種である。ごつい機械式タイマーに比べ、日本語の「スマート」の語感がよく似合う。スマホのアプリから簡単にオン、オフが出来るので、それによる音質の変化をみる(聞く)ことが容易である。その意味でもスマートだ。声で指示することも出来るが、なにか照れくさい(孫は面白がる)。

 もとのProと新Airと、いずれもバッテリ駆動状態にしていながら、なぜ音がかくも異なるのか。LANケーブル経由での電流変動やパソコン駆動による電磁波の影響が完全にゼロだとは言い切れないが、音質に影響するほどのものがあるとは思えない。アンプとスピーカからは部屋の反対側にあり、8mも離れているのだ。

 となると、CPUの速度の違いのみが残される。RoonがSSDから音楽データを取り出し、何らかの処理を施し、それをRAATプロトコルのもと、Ethernet経由でDevialetアンプに送り込む。このやりとりではデータのエラーチェックなどの計算処理があるが、その後、DACの直前のバッファに入る。SSDから始まり、このバッファに至るまでの旅程の情報処理作業がDevialetアンプ内の処理、たとえばデータ遅延への対策処理、などに影響し、それがアンプ内のアナログ処理に影響する、というようなことがあるのだろうか。パソコンとアンプ間での作業が軽いほど、つまり速く済むほど、このアンプでの処理に余裕があり、影響が少ないはずである。などといろいろ推論してみたものの、正直なところ、よく分からない。

 いずれにせよ、音が生まれ変わったことは確かだ。3次元音空間の広がりと密度、精度が増し、幽かなニュアンスまで鮮明に描写される。しかも、雑味の全くない無垢な豊潤さが醸し出される。Devialetを1000 Expertにグレードアップしたときに得られた、強靱なバネのような躍動感はもちろん引き継がれているが、それが目立たち過ぎず、豊潤さのなかの芯となって包まれている。こんな音ははじめてだ。クラシック、ポップ、ジャズといろいろ聞いているが、いずれもこの感覚の期待が裏切られない。何度も飽きるくらい聴いた曲なのに、新鮮な喜びをもたらしてくれる。

 パソコンの性能測定をするSenseiというアプリがある。もとのProで測って見たところ、Roon使用時にCPU能力の1%前後しか、使っていなかった。新Airではまだ測定していないが、多分0.5%くらいだろう。メインメモリの使用率は30%程度。実務的に見れば、過剰で余分に見える。しかし、オーディオ機器としては、過剰なくらいの物理性能が余裕を生み、いい方向に働くものだ。物理的性能については、決して "Less is More" ではなく、むしろ、"More is Differnt" であることを痛感した。

 4年後、ムーアの法則が続くとすれば、さらによい音を生むパソコンが出現するのだろうか。

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