オーディオの美は細部に宿る

近所の本屋で,「長岡鉄男のわけのわかるオーディオ」(音楽の友社,1999年)を見つけたので,思わず購入した.むかし,オーディオ雑誌での連載を読んだことがあり,懐かしかった.あらためて通読すると,さすがにこの人はオーディオの本質を掴んでいた,と感じた.

たとえば,オーディオルームの広さ.理想的には20畳から40畳がよい,と言っている.わが部屋は約4m x 8m x 2.5mで,まずまずだろう.これまでの拙システム(以降,Mmと呼ぶことにする.読み方はご自由に)のセッティング経験から考えると,いろいろな理由からたしかにこの広さは必要であると思う.また,スピーカの位置はできるだけ壁から離すのがよい,としている.ためしに,Mmのスピーカをぐっとその後壁に近づけてみた.すると音がやたらと賑やかになり,好ましくない(後壁には一応SONEXを貼っている).そこで,もとどおり,後壁から1.7mの距離に戻すと,すっきりした.横壁との距離は左右とも約1mである.なんのことはない,初期の黄金分割配置に戻したのである.ただし,鉄則の2等辺三角形だけは厳密に保持するよう再び計測しなおし,調整した.現在,5,883mmで,わずかに内向きにしている.

反響は音を乱し,汚すだけであるから,周囲の壁,天井,床はないのが一番よい.そうはいかないので,吸音するが,完全な吸音はあり得ず,周波数特性を持ち,遅れを伴うので,もとの音を汚す.そこで,次善の策として出来るだけ離れたところにスピーカを置く,ということになる.しかも,当然,左右スピーカ間に一定の距離が必要である.リスナーの背後も同様で,少なくとも1mは必要だろう.となると,必然的に全体として一定の広さが要求される.

この本には述べられていないが,ケーブル設置をいろいろ試して見たくなり,電源とスピーカのケーブルに付けていたケーブル台(床からのインシュレータ)を外してみた.電源ケーブルはケーブル台を使わない方がなぜか付帯音が少なく感じられた.スピーカケーブル台は,ある方がよい.カクタスの木片を使っている.この木片にも黄金分割がある.

さらに,電源コンディショナーPIMM2の下と上にRASKを置いた.これが意外に効果があり,電源コンディショナーの微振動を抑え込むらしい.ケーブル台と同様,マイクロフォニックの問題である.マイクロフォニックmicrophonicというのは,固体の微振動がマイクロフォン効果を持ち,電流変動を起こすことをいう.インシュレータやスタビライザを使うと,その副作用としてしばしばマイクロフォニック現象を起こし,音を汚してしまうことを経験している.この微振動によって生じる音の変化を実際に計測した例を私はしらないが,人間の耳は確かにそれを感知する.ガラスの上にアンプを置けば,どこかガラスのてかり感を感じるし,スピーカスタンドの下に紙一枚を挟めば,音は紙臭くなる.

「音の不思議をさぐる」(大月書店,1998年)には人間の音の知覚のすごさが繰り返し述べられている.技術や認知科学がこれだけ発達した現代にあってもなお,知覚,すなわち感覚器と脳との複雑な相互作用による高機能の解明はあいかわらず困難らしい.昔ながらの,分析はフーリエ展開で,合成は各周波数成分の線形結合で,というような単純なアプローチにのみ頼っていてはとても理解できるものではないだろう.

何度も述べてきたが,セッティングがぴたりはまると,とたんに音場が明晰になり,大きく広がり,左右だけでなく,高さと奥行きが現れる.歌手は,スターウォーズの3次元ホログラフィ像のように目の前に立っているし,楽器は部屋の左右,手前,奥に持ち込まれて鳴り響く.バーチャルなのに,ソリッドでリアルだ.これらの効果が生じるのは,結局のところ,音の立ち上がりと余韻のきわめて微細なニュアンスが過不足なく正確に表出されるかどうかにかかっている.機器,あるいはセッティングが悪いと,本来あるべき精妙な細部がつぶれてしまうか,あるいは汚される.その微細さは,たとえば,ナノ秒以下の精度が問題となるジッタなどに典型的にあらわれる.マイクロフォニックも同様の次元の問題なのだろう.

神だけでなく,オーディオの美もまた,細部に宿るようだ.

コメント

  1. ネット上の噂によると、今週末にDevialetのバージョンアップが公開されるようです。iOS対応アプリも同時リリースされるとか。楽しみです。(^^

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