良質な音場を確実に得るためのスピーカセッティング

拙システムのスピーカ HB-1 はいかにも小さい.なぜこれを選んだのか.小さいことの利点がその欠点を上回るからだ.まず,場所をとらない.次に点音源に近い.そして,これがきわめて重要だと私には思えるのだが,セッティングの調整が容易である.どんなにいいスピーカだと言われても,何百キロもあるスピーカを自室に持ち込む気にはとてもなれない.

ステレオ効果を十分に発揮するにはなによりもスピーカセッティングがものをいう.そして,先に参照した "The Complete Guide ... "にも書いてあるとおり,スピーカセッティングは不動産と同じで,"location, location, location..." である.そのチューニングたるや,ミリ単位以下である.HB-1の移動が容易であるため,なんども位置や角度を変えてみた.そして知ったことは,西野式の正しさの再確認である.すなわち,左右スピーカのフロント面を可能な限り精密に左右対称にすること,これに尽きる.壁や家具など,周囲環境の影響はもちろんあるが,副次的である.そのことを今日もまた改めて知った.

音楽を聴いていて何となく変だな,と思い,たとえば,音が濁るとか,右に重心が掛かりすぎるとか,気になるところが出てくるとそれが引っかかって聞き疲れがする.そういうとき,まず疑うのは録音だが,次にスピーカのセッティングで,位置をいろいろ変えてみたくなる.その結果,効果が裏目に出て,それまでにあったバランスのとれた均質な音場が妙にいびつでゆがんでしまうことが往々にしてある.今朝もそういう状態だった.そういうとき,あらためて,スピーカの位置と向きを調整し直す.現在採っている方法は,まず左右スピーカの後壁からの距離を合わせ,次にレーザ墨入れ器で角度の対称性を見る.それぞれミリ単位で調整できるが,それだけでは実は精密さにおいて不十分である.左右スピーカの向きの軸が交叉する一点と左右スピーカのそれぞれの中心が作る三角形が精密に2等辺であること,つまり,左右スピーカが同一点に向いていることが重要である.この2辺の距離はスピーカのバッフル面にレーザ距離計の底を当て,レーザ光の交叉する点までの距離を測る.私の部屋ではスピーカ前方(リスナーの背後)に液晶テレビを置いているので,その面にビームを当てて計る.現在,両辺ともぴったり5875mm(もう一辺,つまり左右スピーカの中心の間隔は約1m50cm)である.

テストCDとして XLO/Reference Recordings の Test & Burn-in CD を聴く(もはやCDプレーヤを持たないので,iTunesにあるファイルを選択,プレイする).自室の環境では,セッティングのチューニングが不十分なとき,トラック3の逆位相の声がなぜか左上に集まってしまう.しかし,チューニングが合うと,期待通り,前面いっぱいに一様にとらえどころなく広がる(理想的には左右の音が互いに打ち消し合って無音になるはずだが,実環境では複雑な反響音があるからそうはならない).そして,トラック6,Keith Jonson教授が自ら解説する声.中央から右,そして左へと移動するとき,不十分なチューニングでは声が変わってしまう.教授の言うとおり,これが変化しないようにすることは非常に難しいが.上のチューニングを精密に行うことにより,この変化がほとんど無くなる.さらに難しいのは,教授が奥へ引っ込んでいき,奥で右に行き,左に行き,さらに中央に戻ってそこから拍子木を叩きながら次第に前面に出て来るときの声の変化である.3次元空間がはっきり認識できるかどうか,また,拍子木の音がずっと中央に位置するかどうか.これらがクリアされたとき,最後のマルチマイクロフォンによる録音の音像定位の悪さが教授のいうとおりよくわかる.

スピーカを闇雲にあちこち移動して試行錯誤するだけで調整しようとするならば,このテストCDをクリアするのは至難の業であり,正直に言って私はその方法でうまくいったためしがない.しかし,上のレーザ距離計でのチューニングを行うと,かなり容易にうまくいく.そしてこのテストを合格したあと,ぱっと視界が広がったようなクリアなステレオ音場がどんな録音のCD(ファイル)に対しても出現するのだ.

2等辺三角形を維持してそのまま場所を変えたらどうなるだろうか.また,2等辺三角形の形状を変えたらどうなるだろうか.まだ試していないが,予想では,音色の変化などはあるかも知れないが,ステレオ効果の基盤,つまりホログラフィックな音場形成の実現自体は崩れないのではないだろうか.可能な限り精密な左右位相あわせこそステレオのキーだからである.

システムが上質であればあるほど,2等辺三角形効果はより明瞭に現れるだろう.実際,拙システムを高度化するたびにこのことを実感してきた.逆に,どんな上等な装置を使ったシステムでも,スピーカセッティングの三角形がいびつならば,3次元的広がりのある音場は形成されず,音もゆがみ,リアリティを欠いたものになるだろう.

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