音源媒体の世代交代

小学生のころ,転校してきたばかりの友達の家でSPレコードのチゴイネルワイゼン(たしかハイフェッツ)を聞き,ショックを受けた.なんと美しく贅沢な世界があるのだろう.中学では,O先生の自宅でベートーベンのシンフォニーやシューベルトの歌曲を,やはりSPで聴かせてもらった.そのころ,米国でHiFiのLPが出たことを科学雑誌で知った.まだモノーラルだったがすぐにステレオが出始めた.高価だった.

その30年後,1982年にCDが出ると,ビニール媒体に必然的に伴う針音ノイズと内周歪みがないことに感銘し,それまで持っていたレコード盤(たいした数ではなかったが)と機器を全部しまい込んで,CDだけを聴くことにした.その頃のCDをいまでも聴くが,とてもいい音がする.当時,音が固いとかきついとかいわれ,その通りだったが,それは,CDのせい,ましてその方式のせいではなく,再生装置が未熟だったからだ.

さらに30年後のいま,市場では,CDは落ち込み,電子ファイル化が勢いを増している.1990年ころの私の予測では,CDの次の音源媒体は固体素子になるだろう,というものだった.それも,LPからCDへ30年かかったのに対し,技術進歩の早さからみて,その半分の15年で媒体交代が起こるだろう,と考えていた.15年というのははずれたが,媒体が固体素子(SSDなど)に移行しつつあるのは確かであろう.その原理的利点は,再生過程のなかに機械的可動部分が全くないことに尽きる.LPでもCDでもモーターの回転に起因する機械的,電気的ノイズ対策には非常な努力が注がれているが,完全に押さえ込むことは出来ない.

固体素子ではこの部分は全くない.すると残された問題は何か.ジッターとエイリアシングである.ジッターは左右の音の位相差を狂わせるからであろう,音の定位,存在感,空気感を損なう.エイリアシングは一種の歪みとなり,とくに高域をきつく,固く,汚く感じさせる.ジッターは,精密なクロックとそれへの同期,エイリアシングは,信号処理理論の進化とDSPによるその実装が対策となる.いずれもすでに相当な水準に達している.

オーディオの残る課題は,スピーカと,接続ケーブルを含む機器のセッティングとなる.ここはいまだ論理ではなくアートの世界であり,試行錯誤がものをいう.そのことをここ数ヶ月のセッティング調整で思い知らされた.

(このように考えながら,私自身は,あとで述べるように,まだSSD音源の機器を入れていない.SSD内蔵のMac Book Airを持っているので,試してみようかと考えているが,パソコンからの直接出力では音質はあまり期待できない.といって,SSD内蔵のオーディオ用NAS製品は限られている.しばらくはまだCDが優位なのではないだろうか).

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