LANアイソレータ 効果は如何

 拙システムμJPS のようなディジタル技術にすっかり浸かったオーディオシステムでは、情報を処理する機器内部のみならず、それらを繋ぐケーブルを高速パルスが行き交うから、それが引き起こす電磁誘導による高周波ノイズに充ち満ちている。実際、大分昔になるが、WiFI以外〔電源さえ〕どこにも繋がっていないノートパソコンを試聴室に持ち込んだだけで音が濁った、と感じた経験がある。もともと、アナログ処理の持つ曖昧さを論理的に不透明なものとして排除したいがために、可能な限りディジタル化を進めてきた。ところが、その副作用として、ディジタル情報を表す高速パルスとその処理が引き起こす高周波ノイズの問題が生じる、というジレンマが生じた。

 コンピュータをはじめ、現代ディジタル情報処理は冗長コード化技術が支えているから、ノイズなどにより情報劣化が一定限度以上を超えると、エラーチェック機構が働き、すくなくともエラーが検出され、場合によっては自動修正される。もしこの仕組みがなければ、膨大なディジタル情報の完全無誤謬の記録、伝送、処理は成り立たず、信頼性が崩壊して、全く役立たずのものとなる。正常に機能しているか否か、それこそyesかnoかで明快に決まり、だめなときにはディジタル的破局として「全くだめ」となる。つまり、ある程度いいとか悪いとかいうようなアナログ的ファジーさがない。この限りにおいてはオーディオで言われる「いいような気がする」とか言う表現は出てこない。しかし、どのオーディオ機器も最終段階は空気圧の振動というアナログ現象に帰結するから、そこに至るまでのディジタル処理では許される、というか見逃されるノイスは、結局は最終の音に何かしらのアナログ的影響を与えることになる。ディジタル化によって高度に発達した現在のオーディオのノイズ対策技術に、いまだに宿命的に残された課題である。

 高周波ノイズの周波数は多くは可聴域を超えていて、そのものは感受されない。しかし各周波数相互の間で唸り〔ビート〕が生じ、その周波数が可聴域に入れば感受される。なにか鼻づまりのような感じがして抜けが悪いとか、薄いヴェールをかぶって透明感に欠けるとか、いろいろな表現がされる微妙な劣化音質の一因となっていると考えられる。

 アンプをExpert 1000 Proにアップグレードした後、入力ラインをどうするか、いろいろ試してきた。パソコンのなかのミュージックディジタル情報をアンプに送り込むチャネルを何にするか、という問題である。D-Premierの時代は、ケーブルに伴う電磁誘導ノイズを絶無にするため無線方式にする、ということをDevialet社は当初売り文句の一つにしていた。しかし、このブログでも書き綴ったように、そう簡単にこの理屈が通るものではない。頑丈なはずのWiFiでのディジタル伝送自体、周辺の電波などの影響を受けて脆弱で、しばしば音飛びや停止などのディジタル的破綻が生じた。世の中、そうそううまい話はないのだ。いまやDevialetはWiFIよりも有線LANを推奨している。とはいうものの、WIFi接続は使うには一番容易なので、今回もまずこの方式を試した。WiFi用アンテナが付けられるなど、アップグレードによって大分改良されているようなので、ディジタル的破局は数日間のテストでは出会わなかったが、音質はアップグレード以前のアンプで永らく使っていたUSB接続での音質より劣る、という感じがぬぐえなかった。何かしらの理由でアナログ的ノイズが音を汚すようだ。実際、新アンプでUSB接続と比較試聴すると、それより劣る、という感覚ははっきり受けた。なお、USB試聴で、前アンプ時代に使っていたiPurifier3はDevialetアンプに差し込むと、その隣に位置する光ファイバケーブルのコネクタにぶつかり、接続が上手くいかない。そのため外してUSBケーブルを直接接続してみると、かえって音が素直になることに気がついた。iPurifier3使用時の音色には癖が感じられるのだ。これまでいろいろなアクセサリを使ってきたが、使ったときに音の変化が感じられ、最初はそれが良いことのように思う。しかししばらくして、改めて外し、そして付けなおして比較してみると、音の違いが妙に気になり、不自然に感じられ、かえって嫌みになる。こういう経験をしばしばしてきた。そういう場合は、ためらうことなく、外すことにしている。Less is Moreのモットーの適用でもある。使用機材は少ないほどよい。

 次に試したのが、有線LAN、つまりEthernet、である。一番シンプルな接続はアドホック接続、即ち、パソコンとアンプを直接LANケーブルで繋げる接続である。最も単純なので、ノイズも最小に抑えられるはずである。しかし、いまだに本当の理由が分からないが、実際に試してみるとこれが機能しない。そこで、我がマンションの壁のなかに敷設されたLANを使うことにする。インターネットに接続されたルータからたこ足配線されたものである。交流電源と並んで、各部屋の壁の要所要所に接続口が作られているので、パソコンとアンプともにそれぞれ最寄りのLAN接続口につなぐ。複雑で長大な配線網なので、想像するだけでも恐ろしい盛大なノイズを帯び、また発生しているように思われ、これまで嫌って避けてきた方法だ。しかし、WiFIに比べればディジタル情報の伝送として混線や減衰がなく、また速度もずっと上回る。USBと比較すると、速度で一桁以上上回り、また、エラーチェックによるリトライ方式があるため、ディジタル情報の伝達方法としてより正確で安定している。問題はそれに伴う高周波ノイズである。このノイズがディジタル情報にひどく影響すれば、コードの処理でできる限りは自動修復されるが、それが出来ないくらいひどい影響を受ければ音飛びなど、明確な結果が現れる。ここ1ヶ月以上一日2,3時間聞いているが、たしかに突然停止することが3回ほど起きた。ノイズに起因する問題なのか、アンプの受信処理過程の不具合なのか、あるいはパソコンで使用しているRoon RAATの不具合なのか、本当の原因は分からない。しかし、月に1,2回程度なら、趣味のオーディオとしては、気にしなければ済むことである。肝心の問題は、ノイズによるアナログ的な音質に与える影響である。自分が聴いて、いい音がするかどうか、それが問題なのだから、判定尺度は、自分の感覚による主観的判断だけである。様々な曲を聴いた後、長い配線経路を持つにも拘わらず、我がシステムでは有線LANによる入力時の音質がもっともよい、と判断するに至った。

 ケーブルの高周波ノイズの問題はそれがアンプに入り込み、アナログ、ディジタル回路の処理を汚染することだ。Devialetのアンプは大半がディジタル処理だが、何度も言うように、その部分への影響の結果は破綻するか完全に正常かのどちらかで、はっきりしているから、神経質に気にする必要はない。問題は、これがアナログ情報処理部分に与える影響、つまりは情報劣化である。したがって、アンプに入る前に出来るだけ阻止したい、ということになる。なおアンプ内で生じる高周波ノイズについては、使用しているCADのDC1でかなり効果的に吸収、除去できることは先に述べた。

 LANケーブルのノイズ除去装置としてLANアイソレータというものがあるとは知っていた。今回、Acoustic ReviveのLANアイソレーター RL1-1GB-TripleC を試してみることにした。ホームページを見ると、なんともセンスのない色使いのデザインと、意味不明の説明図(図中の説明字句が不鮮明で拡大しても読めない)などから、オーディオアクセサリにありがちなインチキ臭さが気になったが、ほかに適当な製品が見つからなかったので、とりあえずこれを購入し、使って見ることにした。結果は、まぎれもなく効果ありの○。気をよくしても一つ購入し、LANケーブルの両端で使用することにした。一個目ほどではないにしても、やはり効果は感じられた。しばらくこのまま使用し続けてみることにした。パソコン接続のLANでも試したが、変化は感じられなかった。

 こうして、ささやかな改良を経た拙システム μJPS3.1の音はより純度を上げた。エネルギッシュでしかし切れの良いリズムの鼓舞力、あるいは、背景に紗のように広がるエコーの精密描写などにより、音楽が内包する言語を超えたメッセージがさらに赤裸々に伝わってくるようになった。

 なお、CDフォーマットのプレイ時でパソコン(MacBook Pro)のネットワークデータ送信量は、毎秒200KB程度である。受信量は約20KB。使用しているDELA LANケーブルの能力 CAT6 は十分すぎるほど十分だ。もっとも壁の内部に敷設されたLANケーブルがどんなものか分からないが、おそらくCAT5以上だろう。オンラインリアルタイム処理のオーディオシステムでは、CPU処理速度やメモリ量と同様、十分すぎるくらいゆとりのある方が良いと思う。

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