4K放送は暗い? または 黄色は臭い?

 拙システムもAVシステムになった。とはいっても映像部はありふれた2Kの液晶テレビだから、本格的なものとは言いがたい。もともと次のような理由から、長い間AV化に本腰を入れる気にならなかった。

(1)よいソフトに出会わない。高画質、高音質で楽しみたいと思うのはまずオペラである、そこで、これはと思われるオペラのBluRayディスクをいくつか見てきた。しかし、どうも感心しない。映像で見る芝居は生硬で大げさ。さらに、最近のオペラは舞台装置も衣装も経費節減で貧弱だ。クラシック演奏のソフトも見たが、紋切り型のカメラワークでせっかくの名演奏も興が削がれる。いずれも、オーディオで虚像を思い描くことに慣れた身には、リアルに与えられる実像がかえってあだとなるのだ。

(2)音声入力伝送の質の悪さ。テレビからのオーディオシステムへの音声入力は、大半がTOSLINK光ケーブルである。これはS/PDIFなので、オーディオ界では評判が悪い。また、BluRayディスクプレーヤからテレビ受像器への接続に用いられるHDMIも各種信号線が並行しているためか評価が低く、DevialetのアンプではHDMI入力口を意識的にやめたくらいだ。これではせっかく高級オーディオシステムを持っていても、それを活かす高音質AVは期待しにくい。なお、テレビ音声ではやたらと多チャンネル化が行われているが、これも、オーディオの経験からすると決して音響をよくすることはなく、むしろ悪くする。多数のスピーカの位相をきちんと合わせることは至難の業で、位相の乱れが音場と音色を濁らすだけだからだ。そうと分かっているものにトライする気は起きない。こけおどしの高機能化に励むのではなく、まっとうな高音質化の方向を目指して欲しい。

(3)テレビ画面のガラスによる音響反射。広くて平坦なガラス板による音響反射は一種のてかりを音に与え、これもオーディオ界での嫌われものになっている。私も昔、ガラス板からなるオーディオラックを使ってみたことがあるが、癖のある音に嫌気がさして止めた。たしかに、てかるのだ。これを避けるためスクリーンにプロジェクタで映写する方法も試したが、映像が暗くて粗く、とくにプロジェクタの騒音が気になり、何度か試みては止めた。

(4)BluRayディスクデータのパソコンへの取り込みが、DRMの関係からか不可。それが出来るというBluRayディスクドライバも買って試したが、やはりダメだった。これではソフトのライブラリ化が出来ず、不便。

(5)ソフトのパッケージが大きくてCDラックに収納不可。

(6)音楽を聴くときのような「ながら」が出来ない。

などなど。。。

 しかし、今回のアンプのアップグレードを機会に、手持ちのテレビをスピーカの背後に置き、音声出力をアンプに接続して、これも手持ちのBluRayディスクを掛けてみたところ、案外悪くない。画像の視覚情報が圧倒的であるから音声の質は殆ど気にならず、むしろよく聞こえる。ガラス面による音のてかりは、スピーカ背後への距離が十分取れているせいか、気にならない。上記(4)以降の問題は避けられないが、BSでは優れた映像の映画がしばしば放映されるし、また、よく探せば優れたパッケージソフトも見つかるかも知れない。そのようなわけで、少し真面目にAV化を考えてみたくなった。

 テレビをアップグレードするとすれば、有機ELで4K対応の大型受像器であろう。値段もかつてに比べれば大分下がっている。そんなことを考えているときに、「4K放送は暗いのか」という朝日新聞ディジタルの記事を友人から教えられた。せっかく期待して4Kテレビを買ったのに、2Kと比べると映像が暗い、という声がユーザから出ているというのだ。しかし、この疑問、というか、設問自体が奇妙だ。「4K放送」というのはフォーマットであり、放送局側の概念だ。それに対し、「暗い」とか「明るい」という感覚を与える輝度は受像器の問題だ。これではまるで、「FM放送は音が小さいか?」というのと同じで、さらに言えば、「黄色は臭いか?」というような、主体と属性が筋違いのとんちんかんな設問と同じではないか。

 この奇妙な問いかけがなぜ発せられるのか。いろいろな説明があり得るが、この記事が優れているように思う。ポイントは、輝度のダイナミックレンジである。2Kで用いられる標準ダイナミックレンジSDRによる映像と、大きいダイナミックレンジHDRを持つ4Kの映像と、受像器で最高輝度を合わせて比べると、SDRによる映像のほうが階調の数が少ないため、コントラストが強く感じられ、人はそれをより明るい、と感じるようだ。

 この話しを取り上げたのは、オーディオ界でも、フォーマットの問題と、再生機の物理的特性に関わるユーザの感受の問題とをしばしば短絡的に結びつけてしまうからだ。たとえば、古くはアナログとディジタル、近くはハイレゾやSACD論議である。「ディジタルならば音が良い」、「いや、やっぱり緻密な音がするアナログだよ」、とか、ハイレゾあるいはSACDはどうのこうの、といった議論だ。当然ながら、フォーマットが〔人の感受する〕音質を一意的に決めるわけがない。

 実際、私のRoonのライブラリにはDSD以外さまざまなディジタルフォーマットの音源が入っているが、音の善し悪しがフォーマットから決まるようなことはない。さすがにMP3など荒い圧縮音源はどれも劣ることが分かるが、非圧縮のCDフォーマット以上では演奏、録音技術その他のファクタの違いが大きいと考える。

 DSD音源を持たないのは、(1)SACDのリッピングが出来ないこと、(2)サイトからダウンロードする方法があるが、アンプの内蔵DACがDSDを扱えないため、PCMに変換しなければならないこと、からである。情報変換は必ず情報劣化を伴うから、必須のものでない限り、避けるべきであろう。特にソフトによるオンラインリアルタイムでの情報変換はCPU時間を費消するから、その影響が多い。例えば、今回のアップグレードで、DSPによる音量調整が良くないことに気がついた。Roonソフトにその機能があり、Roonの画面で音量調節が出来るのは便利で、以前はずっと使っていたが、今回、音質劣化が現れることに気がつき、今は止めている。ついでに、スピーカ特性に合わせるというDevialetアンプの仕組みであるSAMも使用を止めた。無理に低音を上げるような、不自然な音に聞こえるからだ。やはり、Less is Moreである。

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