Apple Musicの衝撃 ーーー 良くも悪くも

新 iTunes 12,2の最大の売りはたぶんApple Musicの新機能で,実際.世間の関心はそこに集まっているようだ.しかし,所詮はストリーミングで,それもAACなのだから,我がシステムで聴くには値しない代物だろうと勝手に決めつけ,昨日まではあえて無視していた.一夜明けてみれば,やはり湧き上がる好奇心は抑えがたく,試してみることにした.

まずiPhone6で聴いてみた.この小さい機械では当然ながらひどい音がするが,ストリーミングにしては意外にスムースで,internet radioのようなひどさはない.そこで,拙システム Mm で改めて試すことにした.まずは,美空ひばり,大貫妙子,など聞き馴染んだポップから聴いてみた.驚くことに,AIFF版と比べてそれほど遜色ないではないか.美空ひばりの「乱れ髪」など,例のくそ高いCD-ROM版よりいいくらいだ.少なくとも曲頭のどもりがない(^_^).大貫妙子の「Pure Acoustic」は「For You」のライブラリに入っていないが「Attraction」があり,これを聴くと,彼女の暖かみのある声はAIFF版と変わりなく,音響空間的な広がりと存在感も文句ない.クラシックはどうか.次々と試し聞きした.なにせ3ヶ月間は,いくら聴いても無料なのだ.

予期した以上にずっと音が良いので,これは本腰を入れて聞き比べしなければ,と奮い立った.もし音に問題がないのならば,これからはCDやファイルの購入をしなくて良いし,CDキャビネットはもちろん,メモリストレージも増やす必要がなくなる.課金対象がものの「所有」から「使用」へと転換する文明史的な革命が始まるのだ.これこそ商品のあるべき姿だと,じつは,若いときに夢想したことだった.

より精確な聞き比べをしようと考え,ストリーミングの要因を省くため,「For You」のライブラリから「Nightfly」とEnyaのアルバムを選んでダウンロードし,自分のパソコンのローカルストレージに入れた.オフラインで聴けるようにダウンロードが出来るのだ.その上で,CDから取り入れた既存のAIFF版のものと比較テストをしようと考えた.ところがここで問題が発生した.

「For You」にある曲(項目)をまず「マイミュージックに追加」する.すると,これがiCloudに入るらしい.つまり,iCloudにも「マイミュージック」のライブラリのデータベースがあるということだ.次に,その曲に付いているクラウドマークを押さえて,「クラウドからダウンロードする」.こうして,Apple Musicの巨大な,ストリーミングを前提とする「For You」から見えるミュージックデータをローカルなストレージにダウンロードすることが出来る.しかし,この際,もともとローカルにある既存曲とダウンロードして入れた曲とがバッティングすると,おかしいことが起こる.「マイミュージック」のライブラリで見ると,ローカルにある(はずの)曲にクラウド型のエラーマークが付けられ,「エラーが起きたため,この項目はお使いのiCloudミュージックライブラリに追加されませんでした.」という意味不明のメッセージが出て,この曲が読み出せなくなってしまう.その他,タイミングによって変化するおかしな現象が生じる.とんでもないバグがあるようだ(注).もともとiTunesのデータベースは(世の大方のデータベース同様)複雑怪奇で,まるで,手直しと増築を繰り返しすぎた温泉旅館のようになっていて,これまでも予期しがたい動作をすることがしばしばあった.ここでさらにiCloudとの関係が複雑になり,ますますよく分からなくなった.これからApple Musicを使おうとされる方,この種のこわいバグがあるので,くれぐれもご注意を.
(注)<7月5日追加>この件に関連すると思われる記事がネあった.それによれば,「iCloudミュージックライブラリを使用する」と初期設定すると,マイミュージックライブラリを壊してしまうバグがあるという.この危険を避ける方法も述べられているので参照されたい.

ダウンロードしたファイルはAACで,これをAIFFファイルに変換しようとすると,さすがにそんなうまい話は許されず,この手は禁止されている.しかし,AACのママでよければ,App Storeの曲と違って無料で(定額で)いくらでもダウンロード出来るということだ.

Apple Musicでもひとつ感心したのは「radio」で,音質が素晴らしい.このブログを書きながら,その一局の「放送」を流し続けている.すくなくとも,バックグランドで聞き流すには申し分ない.また,昔のFM放送がそうだったように,自分の知らない名曲,名演奏に出会えるいいきっかけを作ってくれるだろう.クラシックとジャズではまだ一局ずつしかないのが残念.

ストリーミングがこれほどまで進歩するとは,正直にいって予想外だった.DevialetアンプのWiFi入力でさえ,さんざん苦労したように,オンラインリアルタイム処理は極めて難しい技術なのだ.しかし,Apple Musicでは,ローカルに格納したファイルの演奏と何ら変わりなく,自然に淀みなく曲が流れていく.世界中でおそらく何百万,何千万の人たちが同時に同一のサイトからこのような個別の大量送受信をしていることを考えると,まるで奇跡が行われているようだ.コンピュータと通信の技術進化がこの高みにまで達したことに,あらためて驚嘆する.

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