超豪華オーディオショップの音

先日,青山に所用があり,そのついでに久しぶりに根津美術館を訪ねたところ,あいにく休館日.がっかりしたが,気を取り直してその近くにある高級オーディオショップを覗いてみた.ビルの三階にあり,店員さんが3名ほど入り口に構えていて,少々気後れしたが,そこは図々しく店内に入った.見たところ,8m四方くらいの部屋の正面と左側にそれぞれ一セットずつ,超豪華なオーディオセットが構えている.正面は,KEFのMuon,左はAvantgarde Trio + BASSHornを主体としている.さて,どんな音を聞かせてくれるのだろうか.

ひとりの店員さんがとても親切に応対してくれる.まず,お願いしたのは,ショパンのピアノ協奏曲1番.オーケストラとピアノがオーディオのもっとも苦手とするものだから.

高級アンプほど寝覚めが悪いのは常識.それまでずっと使っていなかったらしく,案の定,出てきた音はひどい.特にAvantgardeのほうは,右側の音しか聞こえない.スピーカのそばで聴けば確かに音が出ているのだが,離れて聴くとそのようにしか聞こえない.KEFのほうはそれほどではなかったが,なんだか針金細工のようで平面的で貧弱.30分ほど過ぎてやっとどちらもそれらしい音になってきたが,並の装置と変わらない.とくにAvantgardeはホーンなので,オーケストラのような複雑な構成の音を出させると濁ってしまい,聞けたものではない.しかし,トリオ演奏のジャズなどはさすがにそれぞれの楽器の個性を強く訴えてくる.このへんが,気に入る人にはたまらないのだろう.

どちらにもLPプレーヤ(超高級の)が入っているので,LPレコードも聴かせてもらった.予想通り,CDより力強く,音がソリッドである.プチプチノイズは仕方ないとしても,針音はほとんどなく,またワウフラの不安定感はまったく感じない.さすがだ.

たとえ気に入っても私には高嶺の花もいいところだが,眼福にはなった.また,応接していただいた店員さんは装置よりもソフトに強いとのことで,LPとCDの録音などについて大変詳しく,勉強させていただいた.貴重なLPレコードも大事に新品同様に保管されているようだ.あらためて突然の勝手な試聴を許して下さったことに感謝したい.

オーディオ装置は,見るだけで善し悪しが判断できる家具とはちがうのだから,オーディオショップには装置の正確な音の評価が出来る試聴環境を持つことが必須である.にもかかわらず,世界中にそういう店はあまりない.だいたい,私の知る限り海外ではオーディオショップそのものがあまりないようだ.我が国でも,スピーカをやたらと詰め込んで並べたような店が多く,また,たとえ試聴室があっても狭くてセッティングがひどく,機器の本当の音を判断できるような店はほとんど無い.さいわい,もう20年近く付き合っている神田明神下のオーディオショップはそんななかで例外的な店で,しかもセッティングに神経が行き届いていて音がすばらしい.その音はずっと私のリファレンスにさせてもらっている(しかし,ホームページは相変わらずセンスが悪いですね.失礼).

オーディオが盛んな頃は,オンキョーや日立などメーカも立派な試聴室を持ち,私も暇にあかせてよく出かけた.秋葉原にももちろん試聴室を持つオーディオショップがいくつもあった.また,大規模なオーディオショウがたびたび開かれた.しかし,いつのまにか,これらは姿を消してしまった.こういう状況で,人々はオーディオ装置をどう選択するのだろう.上記の青山の高級オーディオショップでは,そのホームページを見て知ったのだが,セット一式案を客に提示し,半額支払えば,それを自宅にセッティングし,もし気に入らなければかかった経費を引いて全額返却してくれるという.これはすばらしい方法だ.しかし,さすがに気軽に冷やかし半分で借り出すというわけにはいかないだろう.

神田明神下の店もアクセサリなどは自宅試聴させてくれるので,これはありがたい.実際,ケーブルなど自分のシステムで使って見ないことにはその効果(場合によっては悪効果)はわからない.しかし,何百キロもある巨大なスピーカまではさすがに貸し出さないだろう.それともお得意さんには案外そこまでするのだろうか.

実は,昨日からD-Premier AIRを dual mono 構成で聴いている.大分迷ったがついにもう一台 D-Premierを買ってしまったのだ.DV-50を,安いけれど,下取りに出し,もうプレーヤはなにも使わない不退転の覚悟?である.結果は...予期したとおり.パワーにゆとりがあり,きわめて低いTHD+Nとクロストーク,それにジッタによって,ステレオ効果が生み出すバーチャルリアリティが一段と自然で豊かなものとなる.しかし,満足度が90%だったものが95%になった,というべきだろう.この5%に掛けるだけの価値ある投資だったのかどうか,私自身,いまのところ揺れている.

新たにわかったこともある.左右スピーカの位置と向きのアライメントをさらに正確にすることで,音場の自然さが格段に向上することだ.そのアライメントは既述した「西野式」をさらに精密にするもので,レーザ距離計を使う.それこそミリ単位以下の調整がものをいうのだ.ホログラフィックな音場形成のためには,リスニングルームの音響環境よりも左右スピーカアライメントのほうが影響が大きいのではないか,とさえ最近は思い始めている.

こういうセッティングノウハウを心得たうえで,自宅試聴を繰り返す.こんなことが出来れば理想的なオーディオ装置選択の方法となる.

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