アクセサリの失敗

またもやアクセサリに失敗した.拙システムはすでに相当の高みに達してしまっているから,何かしら変更してうまくいくよりも,その高みから転落する可能性のほうが大きい.それが十分わかっていながら,まだ上昇できるのではないか,と考えてしまう.オーディオの業である.

以前引用した "The Complete Guide to High-End Audio (Fourth Edition)"はすぐれたオーディオガイドだと思うが,その p.157 に,Bostik社のBlu-Tack(同書にはBlue-Takとあるがスペルミスだろう)をスピーカとスタンドの間に挟むのがよい,と書いてある.HB-1とスタンドの間にはHB-1に付属された四角い透明のゲルを2枚挟んでいるが,よくいえば旺盛な研究心から,しかし,実は単なる好奇心から,どうしてもBlu-Tackを使ってみたくなった.

欧米ではかなりポピュラーな製品なようだが,日本ではあまり見かけない.私もこれまで見たことがない.そこでネットで調べると,Amazonで売られている.実物を知らないので,スピーカ2個の4隅に付けると考えて8個も買ってしまった.届いてみると,一個に大型のチューインガムのようなものが4枚入っている.2個買えばよかったのだ.

いきなりスピーカに使用するのはさすがに怖かったので,まず,アンプのD-Premier Air で試してみた.一聴したとき,音像定位に安定感があり,これはいけるかと思ったが,しばらく聴いていると,音が妙に暗く,どんよりしていることに気がつく.失敗である.もとに戻し,次に,アンプラックの足下に付けてみた.しかし,今度は音が軽くなり,浮き上がってしまう.これも失敗.ここでやめるつもりになったが,やはりスピーカで試してみたい気持ちがやみがたく,ゲルをはずしてBlu-Tackを入れてみた.このとき,たまたま Enya を聴いていたが,なぜかその輝きが見事にくすんでしまった.並のスピーカにはないHB-1独自の開放感が押さえ込まれてしまったかのようだ.Blu-Tackは音の立ち上がりを鈍くしてしまうらしい.そのため,高音の艶と弾みが消え,低音は力強さを失う.

かくて,Blu-Tackはあきらめ,完全撤収することにした.さいわいこの製品は,取り去っても他に全く傷を残さない.そうでなければ取り返しの付かないところだった.撤収したもの自体も半接着物として有効で,いろんなところに使える便利さがある.日本であまり出回っていないのは不思議なくらいだ.しかし,オーディオで使うのはどうかと思う.

この失敗であらためて思うのはオーディオ装置のデリケートさである.きわめて精妙な各部のバランスの上に成り立っていて,その一部をほんのちょっと変更しただけで,かろうじて保たれていたバランスはもろくも崩れ,結果は悲惨である.

いま,カリンニコフの交響曲第1番第1楽章が流れている.あらわれても他からすぐに消されてしまう第2主題が初々しく美しい.オーディオのもろいバランスに似ている.

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