左右の位相同期と電圧,電流の位相同期

ジッタ問題の本質は左右音圧の位相(タイミング)同期を狂わせることにあるというのが私のオーディオ経験則(rule of thumb)のひとつになっている.ステレオは,視覚で言えば左右立体視と同じで,左右の情報が精密に時間的に同期することが必須である.その許容誤差はナノ秒以下ではないだろうか.システムが高度になり,リスナーの耳が肥えてくると,そのくらいの誤差さえも感知するようになる.ジッタは音揺れとしてよりも,左右の位相差が起こす歪み(左右の音の相互干渉)として音を濁し,音場をゆがませ,定位をあまくし,その結果,聞き疲れや,不快感を引き起こす.

オーディオにはもひとつ重要な同期問題がある.電圧と電流の位相同期である.アンプは入力された電圧変化の信号を増幅しスピーカを駆動するが,駆動するものは電圧ではなくエネルギー,つまり電力である.この電力が電圧変化に忠実に従ってスピーカを駆動し,空気圧変動を起こさなければならない.しかし.このとき,電流変動の位相が電圧変動の位相と食い違うならば,電力として歪みが生じ,音,つまり空気圧変動をひずませる.

実は,数日前からΛ5.35を借用している.この機器は電源の電圧と電流の位相を同期するという.電源ケーブルとは別のコンセントにこれを接続するだけで使用するので,その効果を知るための比較試聴は容易である.コンセントに差したり抜いたりすればよい.結果は...

わずかな差といえ,オーディオではこのわずかな差がしばしば決定的なものになる.私の評価はつねに細部ではなく全体感であり,総合判断に従う.その観点から見れば,この差は決定的に大きいように思う.印刷に例えれば,写植と凸版印刷の違いだろうか.現在の印刷はほとんどが写植でその技術もかなり進化したので,凸版印刷との物理的は違いはわずかで,気にもとめない人がほとんどだろう.しかし,一字一字の存在感,輪郭の明晰さがことなり,紙面全体が与える品格が全く異なる.それと同じように,Λ5.35を使ったとき,一音一音の存在感と力強さにその差が現れ,音が前に出て音場が立体的になる.結果として,奏者の息吹,情念がより明確に伝わってくる.特に,ホテルカリフォルニアなど,力強さがまったく異なって,圧倒された.逆に,非使用時には(もちろん比較すればの話だが)全体的に音場が平板になる.

XLOのテストCDを聴いたところ,左右位相同期に対してもなんらかの影響があるらしいことがわかった.トラック12の左右位相を反転させた曲を聴くと,非使用時には歌手の音像が左に偏ってしまうのが,使用時には左右一帯に薄く平らに広がり,それこそとらえどころがなくなる.左に偏る現象はこれまで部屋の音響特性でどうにも修正できないものと考えていたが,それだけではなく電源の安定性の問題でもあったようだ.こうして,左右位相がより精密に合うことによって,音場はよりシャープで鮮明になる.思わぬボーナスだ.

左右位相同期と同様,電源の電圧電流位相同期についても今後,もっと追求されてしかるべきであろう.

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