電磁波,恐るべし

オーディオのいわゆるアクセサリと呼ばれる器具をこれまで数知れず試してきたが,大半は失敗だった.追加した瞬間に,これはだめだ,というもの,比較試聴を繰り返しても,効き目が分からないものは,当然ながら使用しないことにしている.一方,入れた当初は,これはすごい,と感激したものの,しばらくしてから取り外してみると,そのほうがかえって癖がなくてよい,という経験もしている."Less is more" を指導原理としている私としては,必要ないものは基本的に使うべきでない,と理性では考えているのに,少しでも音がよくなれば,という意地汚い欲望についつい負けてしまう.実際,稀ではあるけれど,よい効果をもたらしてくれるものもないわけではない.

今回は,H.A.L(神田明神下の店)のE.M.G-boardを試してみた.電磁波を吸収するボードとのこと.Mistral EVA-C1とそっくりで,それもそのはず,H.A.Lの特別仕様によるOEMだそうだ.

電磁波吸収といえば,昔からよく使われてきたフェライトコアがある.私もあちこちのケーブルに付けて見たが,いまひとつ効果のほどは分からない.一種のおまじないみたいなものだ,これは,一度付けたら外すことが出来ず,付けたままのケーブルは,もったいないけれど,お蔵入りにしている.静 CNC20-200も電磁波吸収シートで,わずかながらも効果が認められたので,ディジタルケーブルに使用している.この他,いろいろ出回っているようだが,どうも眉唾ものが多い.E.M.G-boardもそんな疑いを持ちつつ,しかし,試聴させてもらうことにした.

Devialet 800の2台のアンプのそれぞれにあてがってみた.Zoethecusのアンプラックに載せ,その上にアンプを置く.寸法はちょうどよい.ボードにマイクロUSBで接合されたアース線の片方がYラグになっていて,それをアンプのアース端子につなげる.いろいろなジャンルの聞き慣れた曲をいくつか聴いてみた.ちょっとよくなったかな,という程度だ.この程度ならば,「余計なものは使わない」主義から,返却しようか,と考えて,取り外した.念のため,その状態で聴いてみた.なんと,驚くほど濁った,汚い音がするではないか.無い状態でしばらく聴いていると,何ともいえぬ圧迫感があり,頭が痛くなってきた.あわてて再びボードを設置し,聞き直す.汚れがぬぐい去られた音がする.人間の感覚は,微分(変化)と積分(累積)の両方に反応するものだ.

では,システムのもう一つの構成要素であるパソコン(MacBookPro)に適用するとどうなるのか.アンプの下の二台を取り払い,そのうちの一台をMacBookProの下にあてがって,試聴した.アンプの場合ほどではないが,やはりまとわりつく雑音をぬぐうような効果が感じられる.結局,3台購入した.

それから早くも3週間が過ぎた.電磁波ノイズの有害性がはっきりしたいま,なりゆきで3台も使用しているWiFiルータが出す電波が気になり,それらを止めてみた.微妙な音の違いを聞き分ける能力にはあまり自信のない私にさえ,その違いが分かる.WiFi電波を出していると,とくに高音が賑やかで汚れて聞こえるのだ.音響空間を水槽に,音を泳ぎ回る熱帯魚にたとえるならば,水槽を満たす水がどこまでも澄んでいるかどうかの違い,といえばよいだろうか.

iTunesライブラリのあるMacBook ProとアンプDevialetはUSB接続だから,WiFiルータを止めても問題がない.やっかいなのは,このMacBookProと,WiFi経由の「画面共有」でリモート制御しているパソコン(MacBookAir)との接続が出来なくなること.使い勝手がひどく落ちるが,音重視の鑑賞モードにひたりたいときには,リモコン操作でiTunesでの選曲を終えたら,WiFiルータの電源を落としてしまうことにしている.これで,我が家で出すWiFi電波はゼロになる.さらに念を入れ,MacBook Proの電源接続を切り,ディスプレイの輝度をゼロにした.余計なものは一切そぎ落とすべし.

この設定での音は,じつに透明で,美しい.おもわず聞き惚れてしまう.先日,畏友K君が来訪し,お土産に1992年録音のシュタルケル演奏,バッハ,チェロ無伴奏のCDを持参してくれた.これをiTunesに入れ,聴いたときには,身も心も吸い込まれるようで,ほとんど陶酔状態に陥る自分に驚かされた.汚れなき無垢の音がこれほどのものとは.ピュアオーディオの醍醐味だろう.

楽天で「セレウス・ペルヴィアス」という名のサボテンを購入した.電磁波を吸収するのだそうだ.効き目のほどはよくわからないが,いまのところ害はなさそうだ(笑).

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