Devialet 800 !?

4月30日にDevialet社からメールが入り,Firmware 7.0.0のベータ版が出来たとのこと.なんと,このソフトウェアバージョンアップによって,Devialet 500はDevialet 800に改名?される.さっそくダウンロードして試聴してみた.わかったことは...

(1)WiFi, ETH(EthernetつまりLANケーブルの使用),USBいずれの入力でも定位のズレは認められない.

(2)しかし,WiFiとETHいずれも,突然死(接続が切断される)が頻発する.平均不倒時間は1時間弱程度だ.ジュジュというようなディジタルノイズや音落ちもしばしば生じる.USBでは数十時間試してもこのようなディジタル的破綻は全く見られなかった.

(3)アップサンプリングは,WiFi, ETHではCoreAudioのConverterを使用し,USBではAudirvana PlusによってCoreAudioとiZotop64-bit SRCともに試してみた.いずれも定位については問題なし.音質については後述.

このようにまとめてみると,今回バージョンアップされなかったDevialet AIRにまだバグがあるようだ.これまでWiFiが無線のためこの種の確率的変動による不安定さがあるのではないか,と考えていたが,有線のETHでも全く同じ問題が生じ,実際,システムログを見ても同様のエラーメッセージが出ているので,これは有線,無線の問題ではなく,Devialet AIR自体,あるいはDevialet AIRとCoreAudioの連繋に問題があるのだろうと思われる(または,原理的に考えてリアルタイム処理が困難なCSMA方式のルータを介することの宿命なのか).

そこで,ヒアリングはもっぱらUSB入力で行うことになった.USBの仕様では長さが5m以内ということになっているようで,現在の我がシステムで7mの,それも無名のありきたりのものを使っているのはあまりよくないのだが,とりあえずの試聴である.

これがすばらしい.最初は,定位やノイズ,突然死などに気を取られていたせいか,その良さはあまり分からなかった.これまで何度か感じたシステムの進化をはっきりと刻印するようなものは認められない.しかし,聴くほどに,その良さはもっと地味なもので,自然さや無垢な素朴さが持つ力強さにあることに気がついた.たとえば,これまで数百回は聴いた大貫妙子の「Pure Acoustic」.かれこれ20年近く前になるだろうか,はじめてこのCDを夜更けに一人で聴いたときの新鮮な感激が蘇った.彼女の音像は等身大ですっくと立ってささやきかけてくる.かすかに声がかすれているが,これがリアリティを強める.美空ひばりのCD-ROM版「愛燦々」.トラック出だしのどもり(だぶり)は気にしないことにして,しみじみと歌うひばりの表情がくっきりと見える.前に「音が見える」という表現について書いたが,「歌手の表情が見える」のだ.それに,カラヤン指揮,ベルリンフィルの「アルプス交響曲」.こんな複雑怪奇で大編成オーケストラの曲でさえ,混濁や不快なきしみをなんら見せることなく,多種多様な楽器の姿が現前し,充実した音響空間が繰り出される.この彫りの深いリアルな音響空間の現出は,定位の精度の向上と決して無関係ではないはずだ.

さて,アップサンプリングはどうか,Audirvana Plusではいろいろな方式が選択できるので,それらを試してみた.たしかに絹ごしの豆腐のように,音が滑らかになる.しかし,なんだかつまらない.たとえば美空ひばりでは,その表情が消え,のっぺらぼうになる.大貫妙子の場合,リアリティを生み出したかすれ声が消えてしまう.音場の彫りの深さが消え,ピントが甘くなる,という感じだ.生命力が萎えてしまう,といってもよいかもしれない.良く出来たアナログシステムが持つあの「生命力」だ.まったくの当てずっぽうだが,アップサンプリングによるビットデータの内挿加工は左右音それぞれに独立に行われるため,それが左右音情報の本来の正確な位相差を乱してしまい,その結果,力強い音場の形成を損なうのではないだろうか.オーディオアクセサリと同じく,ソフトウェアアップサンプリングも下手なお化粧を施すだけのものかもしれない.

ファームウェア7.0.0を立ち上げると,ディスプレイに「ADH」と「SAM」のロゴが表示される.ADHはAnalog Digital HybridでDevialetアンプの売り技術そのものだが,SAMとはなんだろうか.調べてみると面白いことが分かった.どうやらSpeaker Active Matching(妙な英語だ)のことらしい(速報参照).Devialet 500へのハードウェアバージョンアップの際,DSPの性能が3倍になる,と書かれていて,何に使うつもりなのか,気にはなっていたが,やはり,スピーカ特性に合わせて出力電圧を適応させることに使うようだ.このアイデアは別に新しいものでも珍しいものでもないが,DevialetアンプではそのADH機能をフルに活用して,通常のイコーライザのように電圧調整だけでなく,それに伴わなければならないパワー適応,つまり電流も適応させる能力があることが大きな利点になるだろう.いまのところ対象スピーカはB&WとVivid のスピーカだけのようだが,KisoのHB-1も是非入れてほしい.

試聴したファームウェアはβ版で,本版は今月中旬に出される予定だ.上記のバグが修正されれば,WiFi, ETH, USBの三種の比較試聴が出来る.どれに軍配を挙げることになるか,楽しみだ.

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