隠されたパラメータ

前稿で,モニタルームのシステムでは左右対称性が厳密に守られているはずだ,と書いた.本来ならば,モニタルームのシステムのあらゆるパラメータが再生装置の入力情報に含まれるならば,そのパラメータを再現するように再生システムを作るのが,本当の再生になる.しかし,現行の録音商品にはそれらの情報はなく,また,もし可能にしたところで,それらを再現する再生システム作りは難しいだろう.

ジッタ論議でのクロックについても似た事情がある.録音時の音圧強度はビットパターンとしてデータ化されるが,その時間情報が含まれていない.そこで,理想的に正確なクロックで録音されたはずだ,という暗黙の仮定を置き,それが正しいという前提で,再生装置にやたらと正確なクロックが求められる.S/PDIFでは,データとクロック信号が伝送されるので,送られたクロックに従ってデータが復元されるが,この場合,ケーブルの伝送歪みがあればクロック信号が揺らぐため,この方式で必ずしももとの時間情報が正確に再現される保証はない.セパレート型CDプレーヤでトランスポートとDACをS/PDIFで繋ぐものはこのせいでかえって音が悪くなる,という説もあるくらいだ.

モニタルームでの左右対称性も録音時のクロックも,いわば隠されたパラメータで,再生システムの入力情報に含まれない.こういう場合,再生側は,オリジナルでは理想的に設定されている,という仮定に立つほかない.このように,録音技術を理想化し,神聖化した,いわば信心に近いものを暗黙の前提にして再生装置の高度化が進められる.もっといい音がするはずだ,と考えて再生システムを疑い,その改良を進めるとき,こういったある種の非合理性に依存している部分があることは承知しておくべきだろう.

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