D-Premierのバージョンアップとハイレゾオーディオ

7月4日にD-Premier AirのソフトウェアとDevialet AIRのバージョンアップの知らせが入り,早速 Mm に取り込んだ.WiFiでのハイレゾ音源のプレイがこのバージョンアップでの最大の眼目である.

以前に書いたとおり,Mm は(自慢するつもりはないが)すでにきわめて高い水準に達しているので,これ以上の進化は難しいだろうと考えていた.Devialet社はWiFiストリーミングのハイレゾ化をD-Premierの発売当初から言っていたが,それによってもし音が進化するとすれば,一体どういうことになるのか想像しにくく,じつはあまり期待せず,そのため,ハイレゾについて関心をもたずに来てしまい,知識に乏しかった.

そこでまず音源探しから始めた.ネットでダウンロードできるサイトとして知ったのは,
  • Linn Records
  • e-Onkyo
  • HQM Store
  • HDtracks
  • High Resolution Music Download
  • Zunior
  • The Classical Shop
  • Less Loss/High Resolution Audiophile Recordings
  • iTrax
などである.これらだけで見る限り,残念ながらけっして豊富な品揃えがあるとは言えない.1982年当時のCDのようなものだ.ネット上のある記事に,単純にアップサンプリングしてハイレゾ(HD)と称しているサイトがあるから気をつけろ,と書いてあった.上に挙げたものにはそういうものはないだろうと思うが,個別に確かめたわけではないので,保証は出来ない.

きちんと整備されたサイトはDownload Managerなるソフトが用意され,アルバムごとにフォルダにまとめてダウンロードされる.これがないと一曲ごとにダウンロードしなければならず,とくにクラシックなどはダウンロード後の処理が面倒だ.

Devialet AIRはiTunesの上でしか動かず,そのiTunesはFLACを受け付けず,しかし,これらのサイトでハイレゾファイルの多くはFLACである.そこで,FLACをALACに変換してiTunesに入れるというフリーソフトXLDを利用させてもらった.実によくできているので感激し,わずかだが寄付をさせていただいた.iTunesを整理するTuneUpというソフトもよくできていて,重複したファイルの削除や欠けたArtworkを補ったりするのに利用した.

さて,肝心の音はどうなのか.Mm は,ハイレゾによって確実に階段を一段上がった.「さらに一層の楼を上る」(王之換)とはこういうことをいうのだろう.

たとえば,HDtracksからダウンロードしたGlenn Gouldの1955年版Goldberg variations.Gouldの脈打つ若い血潮が聞こえる.むかし,はじめてこの演奏をLPで聴いたときの驚きと感激がなつかしく蘇った.HQM storesからダウンロードしたAki Takahashi のシューベルト ピアノソナタでは,ピアノ特有の豊穣な内部共鳴音が重厚に広がり,キータッチのスピード感が実に爽快だ.ピアノだけではない.弦も声もこれまで以上に存在感と同時に鮮度が増した.無垢の音にますます近づいたのだ.緻密で鮮明な音響空間が眼前に造形され,刻々と変化し,躍動する.

ピアノが持つような分厚く重い低音を出すのは小型スピーカでは無理だろうとずっと考えてきた.オーディオと音楽に詳しい畏友K君にもMm の低音の乏しさを指摘されてきた.しかし,この問題はどうもスピーカやアンプだけの問題ではないようだ.現に今回のハイレゾ化によってその改善がはっきりあらわれた.じつはそういう疑いは以前から感じていた.例の神田明神下の店にある重さ500Kgを超える巨大スピーカとそれを駆動する超弩級アンプを使ったシステムでさえ,私にはこれまで実物のピアノの持つ豊穣な低音を聴くことが出来なかったからだ.しかし,現にいま,こんな小さなHB-1から,これほど重くて分厚い低音があふれ出てくるではないか.

ハイレゾ化はファイルの置き場所の問題をさらにクローズアップした.ファイルをパソコン本体のSSDに置いたときにこそ上述のハイレゾの高みが得られるが,ハードディスクのNASにすると,その良さは損なわれ,高音は歯切れが悪く,低音は薄くぼやけてしまうのだ.つまり,CDフォーマットのときに感じたその差がさらにはっきりと現れた.NASだけでなく,USBメモリでも同様で,ハイレゾの良さが減じて,音が薄く,細部がつぶれてしまう.ハイレゾは当然メモリを食うから,この問題は深刻で,本当にいい音を聞きたいと思ったら,NASはバックアップとしてのみ使い,プレイする曲はそのたびにそこから取り出して本体に持ってくる,という面倒な使い方をしなければならない.テラ単位のSSDがパソコン本体に入る日はいずれ来ると思うが,それまでは音のためにこの面倒は避けられない.たとえそうなってもダウンロードしたもののバックアップは必要だ.

前回のバグ修復のバージョンアップのときもそうだったが,暗にD-Premier全般の音質向上がなされたようで,CDフォーマット音源でも音がよくなったような気がする.いま聞こえているThe Night FlyのDonald Fagenの声が以前より一層生き生きとして,Fagenがいまにも踊り出しそうだ.もう何十年もこのCDを聴いてきたのに,こんな声は聞いたことがない.

今回のバージョンアップには宿題もある.アドホックネットが出来るようになった,と書いてあるが,バグがあってまだ動かない.それが使えれば確実にWiFIの安定化に繋がるだろうが,音質向上に関係するのかどうか,興味深い問題だ.これもあまり期待せずに待つとしよう.

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