AVシステムとしてアップグレード

 我がシステム μJPS を改めてAVシステムとして見直し、再構築することにした。

 まず、テレビ受像機。現在使っているものは、しばしの繋ぎとして5年前に買ったソニー製37インチ液晶テレビである。ソースさえ良ければ、2K映像の画質は結構いいし、音質もそれなりに満足してきた。しかし、屹立する二本のSerafinoの背後にあっては、小さすぎて釣り合いが取れない。それに、視聴する席から遠すぎて、字幕の字など読みにくい。画質についていえば、サスペンスドラマなどで肝心なことが起こる暗闇のシーンで、何が、誰がどう動いているのか、よく分からない。なんだかんだと理由立てをして、多少の出費を弁解しつつ、アップグレードすることにした。(1)65インチ以上の大画面、(2)黒の描写力がいいという有機EL、それに(3)高精細の4K以上を望ましい3条件とした。ネットや雑誌でサーベイしたところ、パナソニックのViera TH-65GZ2000が良さそうだ。今ではどの国産テレビも有機ELはLG製で、情けないことだか、その点は変わりない。しかし、このパナ製品は、有機Elの素子はLG製だが、独自の技術で自社工場でパネルに組み上げるとのこと。画質の違いがどれほど出るのか。目をこらし見比べてみて分かる程度だろうとは思うが、敢えて独自性に挑戦する心意気がうれしく、10万円近い価格差も受け入れたくなる。

 先月末、近所の家電量販店に行ってみた。店頭で、同クラスの各社製品を見比べてみると、いずれも素晴らしく、見た目での差は簡単には分かりそうもない。そこで、店員さんに率直に相談してみた。すると、やはりお目当ての65DZ2000を薦められたが、なんと付けられた値札よりずっと下の、価格比較サイトの最安値よりさらに安くしてくれる、という。ただし、納期が2ヶ月後、とのこと。消費税の引き上げで駆け込み需要のせいかと思いきや、この製品だけが特別だという。予想を上回る人気のせいか、パネル製作で不具合でも生じたのか、それとも訳の分からない輸出規制のとばっちりか。いずれにせよ、製造が注文に追いつかないのだという。手に入りにくいとなるとかえって欲しくなるのが人情で、カードで支払いを済まし、11月末を楽しみに待つことにした。

 こんな事情を友人に〔得意げに)メールで伝えたところ、折り返し、これもまた予想外の話しを教えられた。最近のテレビは内蔵ハードディスクを持たないというのだ。GZ2000はチューナを三つも持っているのだから、録画は当然可能だと思い込んでいた。慌てて仕様を見直すと、確かにハードディスク内蔵の記載がない。AVレコーダを持たない私は、そうなると、予約自動録画している早朝のBS番組「クラシック音楽館」も見られなくなり、毎日の楽しみが消えてしまう。

  録画には苦い想いがある。かつて、VHSやDVDで多数とってはみたものの、殆ど見直したことがない。その経験から、いつの頃からか、テープやディスクなど物理的記録媒体へ録画する機器は使わなくなり、もっぱら(デフォールトで付いていた)内蔵ハードディスクを使い、見たい番組を予約録画し、見て、消すことを繰り返してきた。いわゆる「タイムシフト」である。オーディオでも、昔、FM放送をカセットテープにせっせと録音し、ため込んでいたが、これも再生して聞き直すことはほとんどなかった。物的なメディアによるライブラリ化は、不精で整理整頓が苦手な私には合わない。RoonのAV版とでもいえるような、メタデータ記録やブラウズが容易なしっかりしたデータベースシステムがあれば、パソコン上でのライブラリ作りを考えたいが、どうなのだろうか。当然技術的に可能でも、ややこしい著作権管理問題などが絡んで難しいのかもしれない。

 ということで、当面はAVレコーダは考えず、単純にUSBハードディスクを選ぶことにした。これも販売店の店員さんに教えられるまで知らなかったことだが、テレビ受像機ごとにハードディスクの適合機種が決まっているという。たしかに、テレビメーカ、ハードディスクメーカのそれぞれのウェブサイトに「対応機種」なる一覧が載っている。無意味にユーザに負担を掛ける話しだ。業界で標準化を整えるか、技術的にカバーするべきことだとおもうが、この業界に根深いユーザの利便性軽視性向の一例であろう。それはともかく、適合機種の中で容量が最大のI/Oデータ製 HDCZ UT6KC を選ぶことにした。6テラである。近所のパソコンショップで、これもまた価格比較サイトの最安値より安く買うことが出来た。

 残るはAVプレーヤである。GZ2000との組み合わせとしてはDP UB9000が想定されるのだろう。堅固な筐体などオーディオ性能にも気配りしているのはありがたい。しかし、気になるディジタル音声出力は光ディジタルか同軸ケーブルなので、テレビ受像機と同じくS/PDIFに変わりない。他のAVプレーヤも調べたが、同様である。いわゆるホームシアター志向の強い今のAVシステムでの音響技術は、DolbyだけでなくDTSもマルチチャネルの高度化を追い続けているようで、音声出力の純度の高い高度化は当分は期待出来なさそうだ。ということで、現在持っているパナソニックの低価格BluRayプレーヤを使い続けることになりそうだ。

 つい数日前、友人に紹介されて、Leonard Bernsteinの「Ode an die Freiheit」というCDとDVDの組になっているソフトを購入した。DVDの音声とCDとを比較するのに絶好である。早速、手持ちのBluRayプレーヤを使って試してみた。ベルリンの壁が壊された直後のベルリンでの第九の演奏だから、それだけも感動的である。しかし、ライブでの録音が悪いせいか、CDの音が決して良いとはいえないが、DVDの音はそれよりも劣る。歪みの故か固さがあり、また、合奏の部分は音が団子になって透明さに欠ける。DVDの音声フォーマットはPCMを選んだので、ディジタル情報として両者は全く同一のはずなのに、なぜ音の違いが出るのか。再生ルートは、CD版ではリッピングしてRoonのライブラリに入れたので、
  MacBook Pro → LAN → Devialet
一方、DVD版は、
  BluRayプレーヤ → HDMI → テレビ受像機 → 光ディジタルケーブル → Devialet 
と確かに回りくどい。しかし、いずれも伝わるのはビットストリームだから、もしDeivaletアンプ内のDACの直前でデータを取れば、途中でエラーが生じない限り、両者全く同一のはずである。ディジタルエラーが生じれば、ディジタル的破綻が生じて必ずはっきりとそれが分かるはずだが、それはなかった。音に違いがあるとすれば、それはアナログ現象によるもので、ビットストリームの時間的な揺れ(ジッタ)か、あるいはなんらかの理由によって生じた電気的ノイズである。この点で、二つのルート間での明白な違いは、ジッタが大きいと疑われるS/PDIFを使う光ディジタルケーブルの使用、不使用である(ジッタについては専門書を始め多くの論文やウェブ記事での議論があるが、今回は改めてこちらを優れた参考記事とさせて頂きたい。これまで見た中で、私にとってはもっとも説得力のあるものだ)。

 このソフトを紹介してくれた友人のシステムでは、CDは、CDプレーヤ → アンプ というごく一般的なルートで、DVDは、BluRayプレーヤ → 光ディジタルケーブル → DAC → アンプ、というルートだが、聞き比べてみて、やはりCDのほうがDVDより良かったという。私より確かな耳を持っていると思われる友人の証言である。やはり、光ディジタルケーブルにおける音情報の劣化を疑いたくなる。

 理由はともかく、テレビ受像機ないしAVプレーヤのディジタル音声出力は、CDなどオーディオ専用プレーヤのそれより劣るのではないか、という以前から抱いていた疑念は否めない。もっと突っ込んでいえば、S/PDIFによる音声出力の問題である。そうだとすれば、AV機器でのディジタル音声出力になぜUSBが使われないのだろうか、という素朴な疑問が湧く。テレビ受像機、AVプレーヤ、AVレコーダの各社製品をざっと見たところ、USBが使えるものは見当たらなかった。HDMIもオーディオ界では不評で、我がDeivaletアンプはそれを嫌って接続口を持たない。

 それにしてもこのBernsteinのソフト、何のためにCDとDVDの組み合わせになっているのか、CDとDVDの音を聞き比べて楽しむというような変わった人間が結構いるのだろうか。このセットはHMVで買ったが、CD、DVD単独のものをアマゾンで売っていて、比較すると、CDは単独版が安いが、DVD版はなんと単独のほうが高い。さてはDVD単独版があまり売れなかったのでCDとセットにして在庫を掃きだしてしまおうという魂胆なのか、と邪推したくなる。これもユーザの都合よりビジネスの都合のほうが罷り通る業界の体質がなせる業なのだろうか。

 新システムで期待したいものの一つに高画質の映像配信サービスの利用がある。問題は、いい作品があるかどうかだ。これまで見たことのあるHuluなどの配信サービスでは、提供される作品自体が私の好みとは大きくすれ違っていて、いずれも無料試用期間を超えて購読契約する気にはならなかった。つい先日、MacOSがCatalinaにバージョンアップされたので、付随されたAppleTVアプリの『映画』を開いてみた。試しにスピルバーグの「ペンタゴン・ペーバーズ」を「レンタル」した。MacBookAirへのストリーミングで観たが、映像、音声ともにトラブルはなく、手持ちのディスクをプレーヤで見るのと同じ感覚だった。これから作品の品揃えがどうなるのか。魅力的な作品が高画質の新システムで見られるようになることを期待したい(今のところVieraのウェブサイトでみると、使えるTVアプリのリストにApple TVが載っていないが、是非加えて欲しい)。

 画質、音質に直接関係しないが、スマホアプリによるコントロールも楽しみだ。いま使っているテレビのリモコン操作によるユーザインタフェースのひどさはいつ解消されるのか、ずっと不満だったが、いつの頃からか、他社製品も含め、いまはスマホアプリによるユーザインタフェースが多くの製品で使えるようになっているらしい。もともと1970年代末あたりからのセットトップボックスの高機能化の流れがあり(JAVAはそのなかで生まれた)、パソコン並みのユーザインタフェースが強く求められてきたはずなのだ。

 雑誌などで見ると、オーディオ評論家の大半は映像システムを使っていないように見受けられるが、今回の勉強でその事情が少し分かったような気がする。現行のAVシステムは、ピュアオーディオの基準からすれば、音が悪いのだ。少なくともこの業界は音の質に対する関心が薄いように思われる。全くの素人考えかも知れないが、この問題は、オーディオシステムへのUSBによる音声出力を持つなど、ちょっとした工夫で解決できるのではないか(S/PDIFないしHDMIとUSBとの対比でジッタ問題を論じたこちらの記事が参考になる)。AVシステムでもひとつ問題なのは、コンテンツの自己ライブラリ化がしにくいこと。映像ソフトのリッピングやコピーがやたらと複雑な規制のためか、面倒この上なく、ライブラリを作る意欲が削がれてしまう。こういった事柄が原因となって、AV業界がピュアオーディオファンを取り込めていないのであれば、もったいない気がする。そんな小さなマーケットに興味がない、といわれればそれまでだが。。。

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