リッパーとRoon

 Roon(v1.3)にはアルバムによっては独自のライナーノートめいたものが付けられる.Karajan 指揮BPOのブラームス交響曲第4番のCDはいくつもあるが,そのうちのoriginal releaseが1990年とされるもののノートがひどく辛口で,これがあのカラヤンか,BPOか,こんなひどいブラームスはない,ほかに優れた演奏がいくらでもある,というような書きっぷりだ.カラヤンなら1960年代初期の演奏がいいという.このアルバムを聞きながらこの罵詈雑言を読まされるのだから,やはり気になる.カラヤンのブラ4でもう一枚アルバムの手持ちがあったが,残念ながら1988年録音だ.そこで,他の指揮者のものを含め,手持ちにないものでネットで現在アクセスできるブラ4もののほとんどを買い集めた.いずれも中古品である.

 それらをXLDでリッピングした.大半は読み取りエラーがゼロで問題がなかった.しかし,最後に届いた肝心のカラヤンの1964年録音(リリースは1969年)版CD(下図)をリッピングすると,読み取りエラーはあるものの復元したとログにある.これをRoonのライブラリで見ると,なんと,トラック1と最後のトラック15がスキップされ,表示されない! Roonの説明にトラックがスキップされる理由がいくつか書いてあるが,いずれも心当たりがない.これではプレイすることができない.


 もひとつ方法があった.リッパーとしてdBpoweramp(v16.1)を持っていることを思い出し,試用してみた.デフォールト設定がsecure rippingになっていて,その設定ではこのCDのトラックはすべてエラーになり,abortされた.仕方がないのでこの設定をBurst(エラーチェックなしの一回読み)にして,読み込ませた.各トラックごとのメタデータも正確で,作られたフォルダー名もトラックごとのファイル名もよくできている.Roonのライブラリでの表示が少しおかしかったが,アルバムのマージなどをして一応正常に見えるようになった.ところが,プレイすると,なんと第1トラックをスキップしてしまう.なんどやっても同じこと.結局,このCDに対しては,二つのリッパーソフトは使えず,今まで通りiTunes(v12.7.1)のエラーチェック付きでリッピングしなおした.メタデータもしっかり得られた.プレイも全く問題がない.この中古CDはもともとデータ形式がおかしいのか,汚れなのか,ともかくデータが正常ではないようだ.

 さて,肝心の各CDの演奏の聴き比べは? Roonのライナーノートの酷評を見るまでは,1990年飯のカラヤン演奏は,他の指揮者の名演奏と比較してもさすがだと思っていた.しかし,1964年録音版を聞くと,あらためて1990年版のRoonの酷評が腑に落ちた.精緻で立体的な造形が繰り出すエネルギーというか精気がまるで違うのだ.オーディオでの音楽鑑賞の新しい視点が教えられた.この演奏と対照的なのが,今回はじめて我がライブラリに入れたBruno Walterの1949年録音盤で,全く気取りがなく,端正で誠実な演奏だ.

 それはともかく,Roonはどうしてリッパーを持たないのだろうか.パソコン内の指定されたディレクトリの下にある音楽ファイルをすべて見い出し,さらにそのメタデータをネット上のデータベースから探し出し,可能な限りの正しいメタデータを得て,ライブラリを自動編集してくれる.なのになぜか最初の出発点のリッピング機能がないため,これらの作業がすべて後追いになってしまう.今回のケースでいえば,二つのリッパー専門ソフトが読み取れないため,iTunesのリッピングを使用したが,そのため,iTunesの複雑怪奇なファイル構造を使わざるを得なくなった.iTunesはバージョンアップを重ねすぎて屋上屋を重ねるというか,古い温泉旅館のように建て増しを無理して続けたせいか,必要以上に複雑になっていて,透明度にかける.Roonのライブラリ表示もときに妙なことが起き,それを修正する手段をいろいろ揃えているものの,もとの音楽ファイルのデータ構造がもっと見通しの良いものになっていれば,こんなごてごてとした操作はいらないはずだ.

 Roonがリッパーを持ち,合理的で明快なデータ(ファイル)構造を構成できるようになるまでは,相変わらずiTunesに付き合わなければならなそうだ.

コメント

人気の投稿