Sonus Faber Serafino

 8月17日,拙宅にSonus Faber Serafino Homage Traditionが届いた.HB-1を見慣れた目から見ればかなり大きく,さらに一回り大きいAmatiにしなくてよかった,と改めて思った.3.8m x 8m x 2.5mの我がリスニングルームで,Amatiは大きすぎるだろう.これを機にわがオーディオシステム一式(と部屋環境)をμJPS(Micro Jurassic Park System)と名付けることにした.スピーカ背後の壁の装飾が,意図的とはいえ,乱雑な密林様で,床際の人工芝には小さな恐竜のフィギュアをおいたからである.このフィギュアは一応,イギリス自然史博物館お墨付きのものだ.

μJPS - Micro Jurassic Park System

画面左奥に,隠れて見えないが,MacBook Pro(16-inch, 2016, 2TB SSD)がある.ソフトはMac OS Sierra内のCore Audioと購入したRoonを使っている. Audirvanaは試したものの,一般に言われるほどには評価できず,使わない.SSDのミュージックファイルをUSB2.0経由で画面中央のアンプ(Devialet D-Premier 800)に送り込む.アンプの電源ケーブルはTransparent PLMMで,左右それぞれ側壁のコンセントに接続している.スピーカケーブルは今回スピーカとともに購入したWireworld Ecllipse 1.5m.スピーカの下にはH.A.L.SのZ-Boardを敷いている.リスナーはMacBook Airを使ってWiFi経由でMacBook Proを遠隔操作できる.

 スピーカ配置は,左右スピーカ中心軸からそれぞれの側壁への距離を1とすると,左右スピーカ中心軸間の距離が1.683の黄金分割を基本とする.スピーカ前面から後壁への距離も1.683とする.内振り角度は30度とし,左右スピーカが発する音波の位相をできるだけ正確に合わせるため,厳密な正三角形を形成させる(位相差をゼロにするには二等辺三角形で良いが,そのなかで正三角形はもっとも作りやすい).そのためにレーザ距離計と水準器,それに大型三角定規を使用して,できるだけ精密に調整した.これまでの経験から,精緻で明晰なステレオ音響空間を刻み出すための必須条件だと考えるからだ.リスニングポイントは正三角形の頂点より後ろにする.

 Serafinoの納入後しばらくの間,とんでもないうっかりミスをしていた.HB-1向けのSAM設定のSDカードをそのまま使用していたのだ.DevialetのアンプはSAMと称するスピーカに合わせた周波数特性補正機能があり,アンプの各種パラメータ設定データとしてSDカードで与える.スピーカを変えれば当然この設定も変えなければならない.それを忘れて,いろいろな音源で試聴しているとき,最初は,HB-1の音と大きく違うことに驚き,これこそがいい音なのか,と感心さえしていたが,しばらくして異常に気がついた.重低音が不気味に強く,床や壁さえも揺るがしかねないほどなのだ.HB-1にはない立派なウーファを備えたSerafinoに対してその設定では,当然,低音が必要以上にブーストされる.実は,納入前にSerafino向けの設定をしたSDカードを作って用意していたのだが,新スピーカの試聴に興奮し,それをすっかり忘れていた.SDカードを差し替え,改めて聴いてみた.しかし,やはり低音が気になる.とくにポピュラーな曲に大げさに入れられた重低音がひどい.ドスン,ドスンと床を叩きつけるような音が出る.こうなると,マンション住まいの身として近所,とくに階下の方に対し,迷惑をかけていないか,気になって仕方がない.こうして低音恐怖症に陥った.トーンコントロールを使うとか,あるいはSAM補正を入れない設定にするとか,異常に大きい重低音を避ける方法はあるのだが,それを試す気力さえなくし,せっかくの新スピーカを鳴らすことなく,半月経った.

 いつの頃からか,ハリウッド映画の多くが,たとえばタイタニックの船出の場面のように,劇場を揺るがすような大音量の重低音を出すようになった.最初は迫力があって魅力的に聞こえたが,次第にこれ見よがしのやりすぎが鼻につき,いまでは気分が悪くなるほど不快で,映画館から足が遠のくひとつの原因になっている.オーディオでも,長らく小型スピーカに馴染んだせいか,いつのまにか低音過敏症になっていたのかも知れない.しかし,HB-1向けのSAMが出来たとき,いままで聞こえなかった低音が聞けるようになり,結構気に入った.DAF7の店長さんはHB-1向けSAM補正がおかしい,といってわざわざ教えてくれたが,いまにして思えば店長さんの耳と感性のほうが正しかったのかも知れない.そういえば,SAM補正を使ったHB-1で,NordostのCD "System Setup & Tuning Disk"にある低周波スウィープの18Hzや21Hzを聴くと,50Hzないし100Hzくらいの音が聞こえた.無理矢理の低周波補正で,あるはずのない高調波が出ていたのだろう.

 せっかく入れたSerafinoだが,美術工芸品としての鑑賞にも堪えるとはいえ,ただ眺めているのはおかしな話しだ.だが,そこは恐怖症,心が重く,なかなか次の手立てにすすめない.しかし,ついに勇をふるってSAMなしの設定のSDカードを作り,試すことにした.

 こうして数日が過ぎた.やはりいい.低音も自然だ.豊かで柔らかく,堅固に,だが控えめに,全体を支える,なにより,一音一音の多彩にして瑞々しい実在感が,これまで私が手にしたことのない水準に達していると感じた.実際,ときに荒れ狂うようなヴェルディのレクイエムを最後まで聞き続けることが出来たのは今回が初めてだった.しかし,まだおっかなびっくりで,ボリュームは十分には上げられない.本当の良さを感じるのはこういったへんなストレスなしで,リラックスして楽しめるようになってからだろう.まだ時間は十分にある.

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