Roon 1.2を使い始めた

 遅ればせながら、最近になってファイルオーディオ演奏ソフトRoonを知り、使い始めた。これがなかなか素晴らしい。久しぶりにオーディオに未来指向の息吹を感じることができた。

 システム設定は次のとおり。Devialet Premier 800にUSB接続したMacBook Pro Retina(OS X 10,11.5)で Roon1.2を走らせる。iTunes使用時のように、WiFi接続したMacBook Air(同OS)の「画面共有」ソフトを使用してMacBook Proを遠隔制御してもよいのだが、Airの上でRoon Remoteを走らせると、それによって直接 ProのRoonを遠隔制御できるので、その方法をとる。ここで、OutputとしてDevialet へ接続したUSBを指定し、また、OS内部のCoreAudioを排他的に使用する設定にした。この排他的使用設定はAudirvanaでは出来たがiTunesでは出来ない。iPhoneにRoonのアプリを載せれば、ProのRoonを制御することが出来、実際、問題なく動作することを確認した。操作画面もDevialetのiPhoneアプリよりずっと優れていて、使いやすい。

Roonの閲覧画面例

 Roonを走らせてまずありがたいと思うのが、パソコン内に蓄えたミュージックファイルを、どこのストレージに置いてあろうが、全部見いだし、統合してブラウジングの対象にしてくれることだ。私はいまのところiTunesでしかミュージックライブラリを作っていないが、それでも内蔵SSDとSDカードに別々に持っている。そのため、そのどちらかをiTunesの立ち上げ時に選択しなければならない。ところがRoonはどちらも対等に見いだし、まとめて閲覧表示してくれる。両ライブラリに置いてあるアルバムはその両方が表示される(物理的にどこにあるかを知りたいときにはコントロールクリックを使って見られるファイルディレクトリを見ればよい)。NASは使用していないが、NAS上のファイルも当然、見かけの区別なしに閲覧表示対象とされるだろう。

 こうして、内蔵SSD上のものとSDカード上のものとの音質比較が容易になり、さっそく試してみた。その差はごく小さいが、認められた。SDカード上のものはどこか音がささくれ立ち、またかすかながら軽い。以前、iTunesで試したときにはその差は全く感じられなかったので、再度iTunesで試したところ、やはり認められなかった。iTunesでは出来ないCoreAudioの排他使用設定が効くのかどうかわからないが、Roonの音質がiTunesより優れているひとつの証左にはなるかもしれない。また、iTunesでは、ファイルフォーマットが変わる場合「Audio MIDI設定」を使って設定しなおさなければならず、結構厄介だが、Roonではメタデータに基づいて自動的に設定してくれる

 次に驚かされるのが、Roonが示してくれるメタデータの圧倒的な豊富さと正確さだ。録音時やクレジットはもとよりライナーノートも多くのアルバムで載っている。iTunesの示すメタデータはひどいもので、ひとえにそれが頼っているデータベース(Gracenote)がユーザのボランティア活動に因っているものだから、いい加減なものが結構あるが、文句を付けたくても付けられなかった。しかし、Roonは独自に作成したメタデータを含む音楽データベースを築いていて、かつてのLPアルバムが持っていたくらいのものを目指すとのことだ。ただし、日本語のものはまだない。また、日本語での検索は出来ず、検索キーの仮名漢字変換を行うとダウンする。

 Roonはこのメタデータを使って、プレイしたアルバムないしトラックに連想的に関連すると思われる曲を提示する。プレイ指定した曲の待ち行列が尽きると、その関連曲のなかのひとつが続いてプレイされる。たとえば、内田光子のモーツァルトのソナタを聴いていて、そのアルバムが終わったら、アルゲリッチのシューマン 「子供の情景」 が始まった。面白いと言えば面白いのだが、なぜ、これが?、というような場合もある。選択対象には手持ちのライブラリ以外にインターネットラジオも入っていて、突然、NHKの国際放送が続いたりする。TIDALと提携しているので、その4000万曲といわれるライブラリから取り出されることもあり得る。しかし、残念ながらいまもって日本ではTIDALは使えない。ストリーミングだがCDフォーマットなのでiTunesのMUSICよりはましだろうと期待している。

 RoonはControl部、Core部、それにOutputインタフェース部の3部で構成されていて、それぞれをネットで繋がる別の機器に配置し稼働することが出来る。Core部とOutputインタフェース部のみの構成をRoon Server、Outputインタフェース部のみのものをRoon Bridgeと呼び、Roon RemoteはControl部からなっている。今回のテストでは、前述したように、フルセットのRoonをProに、Roon RemoteをAIrにインストールした。この構成をがらりと変えて、Roon Bridgeを載せたAirをUSB接続でDevialetに繋ぎ、それに対しRoon全体を載せたProからネット越しでデータを送る、という構成にすることも考えられる。こうすると、DAC以降のオーディオ系に直接繋がるパソコンのCPUとメモリの負荷を軽減できるから、音質への悪影響を低減させる効果があるかもしれない。実際、Roon開発者の音質を最上にするお薦めのシステム構成は、さらに進んで、Roon Bridgeをファームウェア化して載せたRoon Readyと呼ぶ種類のディジタルトランスポータ機器に、Roonを載せたパソコンからミュージックファイルをストリーミングするという構成である。こうすると、アナログオーディオ機器に直接影響するCPU稼働による電磁的、機械振動的ノイズを最小限に抑えることが期待できる。今後検討してみたい構成である。しかし、Roon Readyの機器がCPUやOSを持たないかといえば、そんなことはなく、程度の差こそあれ、ディジタル処理をすることでは汎用パソコンと変わりない。ノイズ軽減による音質向上の効果のほどは、実際に試聴してみなければわからないだろう。

 出来るだけよい音を聞きたい。その願望がオーディオ技術の進化のもとになっているが、高度化した現代技術によって、もうこれ以上は無理ではないか、という高みに達していると思う一方、まだまだよい音があり得る、とも考える。古代ギリシャのアキレスと亀の逆説を思い出す。先を行く亀がもとにいた位置にアキレスが追いついたときには、それにかかった時間分だけ亀も先に進んでいるはずだから、アキレスは永遠に追いつけない、という話である。理想の音を亀にたとえるならば、オーディオ技術はそれを追うアキレスに似ている。わずかな音の違いをしつこく追い求めるだけでは、オーディオは、亀を追うアキレスのように、息苦しい閉塞状況に落ち込んでしまう。こういう状況のなかで、Roonは、豊富なメタデータベースを基礎にして、本来の再生音楽文化がもつ広大で豊潤な世界をあらためて展開してくれるすぐれた新装置になるかもしれない。

 それにしても、なぜこれまでLPやCDを大量に製造販売してきた音楽業界が、自社商品のメタデータを電子化し、データベース化して公開しないのだろうか。商品のPRとして販売促進に役立つはずだし、なによりも後世に誇れる人類の共有財産になると思うのだが。


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