音が見える

「スピーカが消える」という表現が陳腐なクリシェとなってすでに久しい.現在のハイエンドオーディオでは,目の前にあるスピーカは意識されず,ソリッドな3次元音響空間が眼前に出現するのが当たり前になった.色鮮やかで,精緻に彫り込まれ,手を伸ばせばつかめそうな空間が,あたかも実在するかのように変幻する.ライブの演奏会で目をつむったとき得られる感覚と同じである.音が見えるのだ.この不思議な,ときに目眩くような体験こそ,現代オーディオの醍醐味であろう.

数日前,改めてMacとルータの間を(WiFiでなく)LANケーブルでつないでみた(下の写真手前のMacBookPro左脇から画面右奥にうねうねと伸びる青色ケーブルがそれで,ルータは隠れて見えない).以前の体験ではその差はあまり感じられなかったが,今回は,その違いに驚かされた.比較テストは簡単だ.パソコンでWiFiを入りにし,ルータにつながるSSIDを設定して聴いてみる.つぎに,パソコンのWiFiを切り,LANケーブルをパソコンとルータにつないで聴いてみる.これを繰り返す.


切り替えたとき瞬時に感じるのは,眼前に生じる空間の分解能の高さとずしりとする存在感の違いである.カットグラスの高級品はそのカットが極めて鋭く高貴だが,安物はなまくらなため軽薄だ.ちょうどそのような違いがある.音の立ち上がりが高速で,左右音のタイミングが厳密に一致することから,精緻でソリッドなステレオ音場ができあがるのだろう.

オーケストラで演奏をすることもある友人から,拙システムの音はなんだかごつごつした感じがする,と酷評されたことがある.そう言われればそんな感じがしないでもない,とじつは思っていたが,そのごつごつ感がいまやなくなった(と思う).ストラビンスキーの交響曲も,ポリーニが弾くドビュッシーも,眼前に立体的空間が出現,それが躍動し,炸裂し,光り輝く.ポリーニの演奏を聴くと,さしもの頑丈なグランドピアノが叩きつぶされてしまうかのようだ.

ルータ(NEC AtermWG1800HP)とアンプ(D-Premier)をつなぐWiFi電波は2.4GHzバンドを使い,パソコンとルータの間は5GHzバンドを使っているから,それをLANケーブルに替えたところでアンプ・ルータ間の情報錯綜を減じたわけではない.しかし,このルータは2個のCPUを内蔵し,ひとつをWiFi処理専用にしていて,その負荷増加による乱れを軽減することは間違いない.両者に違いをもたらすものはそれ以外に考えにくい.ルータがファイルオーディオにとって極めて重要であることを改めて教えてくれた.

なお,Devialet AIR関係のソフトウェアのバージョンアップによって以前のバグとおぼしきものは確かに改善され,ドロップアウトや接続の切断はほぼ皆無になった.ただし,Devialet AIRプログラムを立ち上げ,しかるべき設定をしてから,iTunesを立ち上げ,プレーすると,ドロップアウトが頻出することがある.そのときのMacのシステムログを見ると,
  Devialet AIR[272]: [ WARNING  ]: Failed to send packet...  "Unable to send a message" 
のメッセージが連続して記録されている.Devialet AIRとiTunesとのかみ合わせがタイミング的にうまくいかず,そのズレが回り回って以降のバッファ処理などをおかしくするかもしれない.このことに気がついてからは必ずiTunesを立ち上げてからDevialet AIRを起動するようにしている.それによってプレイの安定性がずっと増したように思われる.

さて,すでにこれだけよい音を聞かしてくれる現在のD-Premierだ.果たして大枚をはたいてまでDevialet 240にバージョンアップするべきかどうか,悩ましいところだ.この種の悩みは,趣味の楽しみのひとつでもあるのだが...しばらく思案してみましょう.

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