Devialet AIR 2.0 登場,しかし,しゃっくり付き

前回,iTunesを11.0.3にバージョンアップするとストリーミングアプリDevialet AIRがうまく機能しなくなることを書いた.すぐにでも対応版が出るということだったが,だいぶ待たされた.そして今,Devialetは高価な欠陥商品を出している,という非難さえ出始めた.その顛末を以下に記す.

iTunes11.0.3がサンプリングレートの切り替えにバグを持ち,クラッシュすることがある,とDevialet社のhelpサイトの3月25日付け記事に書かれている.さらに,同記事でiTunes11.0.4ではこのバグが修正された,とある.しかし,私が試したところでは,この版でもAIRのプレイでのトラック移行問題は解決されてない(実はこの記事は修正されたもので,もとの記事は,11.0.3はバグがあるからバージョンアップをしないように,という内容だった).そのうちに,ステラから教えられ,Devialetがファームウエアのアップバージョン6.0.6と新ストリーミングソフトAIR2を出したことを知った.ステラで検証済みだというので,6月9日,それらをダウンロードし,システムをバージョンアップした.

新アプリは,Web2.0にひっかけたのか,AIR2.0と呼ぶだけのことはあり,前バージョンとは方式が全く異なる.単なるiTunesのバグ対応版などではなく,もともと開発してきたものを出す時期だったのだろうか.iTunesのコントロールによる音楽データの流れを途中で傍受し,それを自前でデータ処理してストリームするこれまでの方式を止め,ビット完全のデータをまるごと受け取ってそれをストリームする方式にしたようだ.つまり,コントローラ(要求された曲のデータのコードをファイルから取り出し,必要なコード変換処理等を施してビット完全なデータにする仕事)とレンダリング(ビット完全な音楽データを音響に変換する仕事)の相互独立性を高めた,というわけだ.このアプリを稼働すると,システム環境設定のサウンドの出力にDevialet AIRが現れる.コントローラとしてのiTunesに関わりなく,どんなミュージックコントローラソフトからの出力も受け取れる仕組みになったのだ.

バージョンアップの作業はなんのトラブルもなく終えることが出来,さっそく聴いてみた.トラックの移行問題は解決され,スムースだ.そして,音質がすばらしい.音の弾みや微細なニュアンスがこれまで以上によく聞こえる.同じアンプ,同じスピーカを使っているとは思えないくらいだ.ソフトの進化にこれほどまでの伸びしろがあったとは.

しかし,その感激は長くは続かなかった.10分ほどすると,音が,まるでしゃっくりのように,瞬間的に途切れる,あるいは重なるのだ.さらに聞き続けるとしだいにその頻度が増してきて,アルバムを終える頃にはほぼ間断なく生じることさえある.ネットでもこの問題が指摘され,騒がれている.たとえば,このサイト.英語のサイトではこの現象をdrop outとかhiccup,blipなどと表現している.

私もそうだが,ユーザはこの種のトラブルに対してWiFiの電波障害をまず疑う.しかし,感度は(AIR2ではなぜか若干向上して)-30dBm前後で,全く問題ないはず.また,パソコン上の他のアプリの影響やiPhone,iPadによるWiFi相乗りの影響なども考え,それらを全部止めてもこの現象に変わりない.AIR2ではセッティング機能によりバッファサイズを変更できるが,それを短くしても長くしても変わりない.Macのシステム環境設定のサウンドで音量や左右バランスをいじれるが,これをやるとパン!という破裂音が出る.スピーカを傷めるかもしれない.いったんAIR2を止めて再接続するとこの病気はクリアされ,しばらくは生じなくなる.どうもバッファメモリ管理の制御に問題があるようだ.リアルタイムのレンダリングの難しさである.

ステラに連絡すると,この現象はDevialet社も認識していて対処中とのこと.そして今,同社の技術力のほどを信頼するほかなく,このひどいバグの修正版がはやく現れることをひたすら願っている.

ソフトウエアにバグは付きものである.私自身,先日,自分が作ったプログラムのバグが発覚し,その対応を終えたところだ.同じ即応をDevialet社に要求することは出来ないが,どうも今回のケースでは,同社の対応があまりよくない.まず,誰が聴いてもすぐわかるこのトラブルがどうして見逃されて出荷されてしまったのか.そういえば最初のバージョンも極めて不安定で,クラッシュが頻繁に起きた.ソフトはその検証テストが非常に大事で,作成にかかるマンパワーの7倍は必要だ,という説さえある.すくなくとも作成者と異なる第三者に十分に使ってもらうべきだ.今回は,iTunesバージョンアップトラブルに対応するべく,慌てて出してしまったのだろうか.それとも新機種の売り出しに合わせた?この状態では新機種のデモをやっても恥をかくだけではないだろうか(新機種でこの病気が出るかどうかはわからない).

また,なぜかこのトラブルのあることを同社のサイトのどこでも述べていない.アップルの悪弊を見習ったのだろうか.しかし,それではブランドへの信頼感が失われるだろう.早急になんらかの説明をするべきだ.AIR2.0の音質がすばらしいだけに,こんなことでつまずかないでほしいものだ.

なお,このトラブルによって,バッファメモリ管理の音質に与える影響が極めて大きいことがあらためてよくわかった.バッファが不足したとき,逆にあふれたとき,どう対応するのか.その処理方式が問題なのだ.このブログでは何度も述べているように,十分なフリーメモリを確保しないと音質に影響するのはそのせいだろう.再生のタイミング問題については,従来,ジッタとして考えられてきたが,実は,数10ns以下の単位のいわゆるジッタではなく,バッファメモリの管理制御こそが(アナログ的にさえ)音質に影響する主要因なのかもしれない.

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